「プロと違い、大学将棋では居飛車と振り飛車が半々くらい。対抗系の将棋になることが多く、東大将棋部では対抗系の研究が盛んですね。東大将棋部は理系が多く、ソフトに詳しい部員もいます。研究内容はもちろん、ソフトの導入法や活用法も共有できています。自分も、東大で序盤の力が上がりました」(伊藤さん)
「ソフト研究は東大将棋部の大きな強みだと思います。データを集めて研究することは、東大生の性に合っているのだと思います」(天野倉さん)
部員のやる気にいい影響を与えられたなら
研究は、各部員が持っているノートパソコンにダウンロードした新しいソフトで行うことが多いが、好意で週1で貸してもらっている本郷キャンパスのそばにある将棋研究用マンション(他の日はプロ棋士が借りている)にあるハイスペックのパソコンを使って研究を進めることもあるそうだ。
大会がすべてなくなって、当然ながら部員のモチベーションは下がっていた。そんな中の天野倉さんのプロ公式戦3連勝。伊藤さんは「いい刺激になって、みんなやる気が出たみたいだし、自分も将棋を頑張ろうと思いました」と語る。
「部員のやる気にいい影響を与えられたなら嬉しい」という天野倉さんは、終わってからABEMAビデオで自分の中継をじっくり観た。
「阿部先生との対局はずっと悪いと思っていたのに、自分に評価値が振れているところもあって、もしかしてチャンスはあったのかなと思いました。ABEMAのAIが示す最善手も見ました。こんな手は自分には指せないと思う手もありましたけれど、勉強になりました」
11月、推薦で竜王戦に出場した天野倉さん
朝日杯の活躍が認められてか、天野倉さんは主催者推薦で11月28日には竜王戦に出場、6組ランキング戦で大平武洋六段と対戦した。天野倉さんは髪を金色に染めていた。
「大学生で自由な今しかできないと金髪にしていたタイミングで対局が決まりました。もう満足したので金髪は最初で最後です」
大平六段とは対局の朝、コンビニを出たところですれ違った。挨拶すべきか判断がつかず会釈をした。大平六段は「金髪のお兄さんから会釈され、珍しいこともあるなと思ったら、まさかの対戦相手」と書き、天野倉さんの終盤力も称えるツイートをした。
「『まさかの』は確かにそうかもと思いました(笑)。朝日杯よりずっと長い5時間の持ち時間は初めてで不安でした。終盤、勝ちがあるかもと踏み込んだのですが、その後よく読んだら、すべての変化が負けで、1時間を超える長考になってしまいました。感想戦でも敗着が分からず、帰ってからソフトで解析をかけましたが、正着は自分の実力で指せる手ではなく仕方ないです。またチャンスをいただけるよう頑張ります」(天野倉さん)