文春オンライン

“高校野球芸人”かみじょうたけしが見た「2020年の球児が掴んだ夢」休校中に大成長した“無名投手”も…

note

休校期間中に自分の野球を見つめ直した

 その秘密がコロナの休校期間中にあった。一人暮らしをしていた彼は実家に帰省し、改めて自分の野球を見つめ直したという。足の使い方を修正するためにダルビッシュ有投手や前田健太投手など、様々なピッチャーのフォームをスロー動画で研究したり、プロ野球キャンプの練習を調べて同じトレーニングを試してみたりと、とにかく貪欲に自分自身と向き合った。

 その結果、自分の身体の事がわかるようになり、力のため方やフォームのバランスが合うようになったのだという。そして、調子のいい時で130キロ台後半だったストレートは、常時140キロ台を投げられる身体へと生まれ変わった。

 

 彼は最後の最後で背番号を勝ち取り、初めてベンチ入りした独自大会で大活躍した。特に準決勝の大阪桐蔭戦では3イニングを無失点に抑え、昨秋の雪辱を当時メンバー外だった選手が果たす事となった。(3試合12回1/3、被安打5、15奪三振、無失点)

ADVERTISEMENT

 もし、休校期間がなく、これまで通りがむしゃらにライバル達と練習の日々を過ごして夏を迎えていたとしたら、はたしてここまで自分に向き合う時間を作れただろうか。

形は変われど、だからこそ掴めた夢もある

「センバツのメンバーに漏れたので、(夏には)絶対に親にいい所を見せたかったんです」(高橋君)

 親元を離れて生活していた高校球児が、久方ぶりに帰った実家で改めて身の回りの世話をしてくれる親の有り難さに気づき、より恩返しをしたいと誓ったのだろう。いつもの春、夏の甲子園はなくなってしまったが、形は変われど、だからこそ掴めた夢も確かにあった。

元楽天・現ヤクルトの嶋基宏さんが、今年の春センバツ出場予定だった母校の中京大中京(中京大学附属中京高等学校)野球部にプレゼントしたTシャツを着て、息子と記念撮影。

 8月10日には、新型コロナウイルスの影響で中止となった第92回選抜高校野球大会に出場予定だった32校による2020年高校野球甲子園交流試合が行われた。

「最後まで闘いぬく事をここに誓います」

 川瀬堅斗(大分商業)、井上朋也(花咲徳栄)両主将による選手宣誓の言葉が胸に突き刺さる。普段なら球場にいるはずの僕も自宅での観戦、大観衆もアルプススタンドの応援団もいない普段とは違う甲子園だと思っていた。しかし大会初日の第2試合、明徳義塾vs鳥取城北の一戦を観てそんな思いは消えた。