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安倍政権はなぜ“画期的”だったのか? 元自衛隊トップが「平和は作らなきゃいけない」と語る真意

元統合幕僚長・折木良一さんインタビュー #2

2021/03/11
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安倍政権で安全保障体制は大きく進んだ

――2013年から15年の時期には、集団的自衛権の話もありました。憲法を解釈で変えるのではなく、憲法の条文を根本的に変えてからやったほうがいいという意見もありましたが、そういった主張についてはどう思われますか。

折木 危機管理や安全保障のありようというのは、まさに国のありようの話だと思うんです。だから本当に大事なのは、自衛隊の位置づけから国の守り方まで、まずは議論することじゃないかと。改正するにしてもしないにしても、その議論こそが大事であって、そこを抜きに進めるのは、私はどうかと思っていて。やはり憲法は国の基本理念ですからね。

――自衛隊の名称を国防軍にする、などといった議論もありますが、そうした点についてはどうですか。

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聞き手・辻田真佐憲さん

折木 繰り返しになりますが、私は名称そのものよりも、まずは根本の議論が必要だと思っています。名称だけ変えても中身が伴っていなければ、かえって矛盾を呼ぶだけですから。

――自民党政権下では、統幕長を辞められたあと、防衛大臣補佐官をやられています。そうした立場から安倍政権を内部からご覧になっていて、やはり安全保障についてはしっかりした政権だったな、という印象ですか。

折木 そうですね。総理も自分のお考えをしっかりお持ちだったと思いますし。実際、国家安全保障会議や国家安全保障局も作りましたよね。安全保障を考える上では、法律的にも制度的にも、大きく進んだ政権だったと思っています。

“政軍関係”を本来の形に近づけていく

――折木さんは自衛隊を「昭和の自衛隊」「平成の自衛隊」「新平成の自衛隊」という、3つに分けています。このうち、昭和と平成の違いはよくわかります。昭和は「存在する自衛隊」であり、平成は「機能する自衛隊」であった、と。一方で、平成と新平成の違いはどこにあるのでしょうか。

折木 私は、安倍政権が始まった頃からが「新平成」だと思っています。情勢で言えば、やはり中国や北朝鮮の動きがすごく大きくなってきて、安全保障環境が変わった。私の認識では、平成というのは「国家対非国家」、要するに震災やテロなど、非対称の脅威との戦いだったんです。ところが、新平成の時代では、特にアジア正面においては国家対国家という形態に変わってきているんですね。それに対応できるように、日本はNSC(国家安全保障会議)を作ったり、法制を整えたりしてきた。自衛隊の役割も、テロや人道支援で海外に行くよりも、国内中心の活動に変わってきました。

 

――そうしますと、政軍関係も変わってくるのかなと思います。いわゆるシビリアンコントロールの問題です。

折木 そうですね。

――「新たな時代の『政治と軍の関係』を構築していかなければならない」とも講演で述べられていますが、それは政治が軍隊を統制するという従来の考え方を、どのように変えていくということなんでしょうか。

折木 変えていくというよりも、本来の姿にするという意味合いが大きいんです。つまり、政治が軍を運用する際には、互いに意思疎通ができて、自衛隊はちゃんと意見具申するべきところはして、政治も方向を示すべきときは示す、という関係ができていないと、国家の命運に関わる事態になるんです。そのように政治と軍が、安全保障に関して同じ方向を向いている姿を見ることで、国民からの信頼も生まれてくる。昔が悪かったから、これからは本来の政軍関係の形に近づいていけたらいいな、という意味合いです。