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内田也哉子と中野信子が答える“子育て”の疑問「“働く気がしない”という子どもと“相性”が悪くて苦しい…」

内田也哉子×中野信子トークイベント#1

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日本で生きるうえでは賢い戦略

中野 私たちは遺伝子的に自分と遠い相手のほうが魅力的に感じるような仕組みを持っている。だからわざわざ自分と遠い相手の遺伝子を半分ずつ混ぜてつくった子どもに、自分と同じことを求めるとは何事だ、と思いませんか。

内田 なるほど。ただ、この質問者の方は、上のお子さんが働く気がない、何もしないことが安全、誰かに依存して生きていけば楽っていうふうに考えていることに悩んでいるようですね。確かに、社会の中では稼いで生きていかなければいけない、一人の人間としてそれは当たり前のことだということはあるにしても、中野さんのマクロな視点からは、こういう上のお子さんのように考える人がいるっていうことについては、どう思いますか? 

中野 「誰かに依存して生きていれば楽で、働く気がしない、何もしないことが安全」と考えるのは、ややだらしない人格のようではあるんですけれど、実は、日本で生きるうえでの最適戦略かもしれないですよ。日本の歴史をよくよく見てみると、誰かに依存しないで独立している人のほうがわりを食っている。働く気はそんな積極的にはないけれどしょうがないから義務の分だけ働きます、という人のほうがオーバーワークにならずに生き延びているように思います。

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 何もしないことのほうが安全というのは、本当にそのとおりです。はみ出したら村八分になるという国ですから、これは日本で生きるうえでは賢い戦略だという言い分に一理あるんですよ。しかも、日本人の遺伝的な傾向を見てみると、新しいことにチャレンジしない遺伝子とか、皆と同じでないと不安な遺伝子とか、たとえ間違ったルールであっても皆が従っているから従いますという遺伝子があるんですが、それが多いのですよ。

内田 こういう人がいて当たり前なんですね。というか、むしろ自然な思考?

中野 むしろ自然だと思う。

 

内田 では中野さんがもし親だったら、こういう成人しているけども自立したくないっていうお子さんをどう思いますか。

中野 「私はこういうふうにして生きてきたのに、お前は何でそうなんだ」と、すごいケンカすると思うけど、子どもが20歳を過ぎたら、「あなたの生き方はそういうふうにすると決めたんだね。では、これからはお母ちゃんは口を出さないけど、援助もしない」と言いますね。

内田 ああ、援助は切る。でも、「子ども部屋にはそのまま住んでいていい」と言いますか。それとも、「光熱費や食費は入れなさい」とか言いますか。

中野 「家は出ていきなさい」って言うと思います。

子どもとは、なるべく距離をとる

内田 なるほどね。私はこの質問した方の気持ちがすごく分かるんです。私の3人の子どものうち2人はもう成人して、社会人と大学生なんですけど、それでも目に見える範囲にいると気になってしまって、余計な一言を言ってしまうんですね。親子のいい距離感がどのぐらいなのか、難しい。

 私は自分の経験不足もあって、特に最初の子には過干渉になってしまった。長男を産んだのはまだ21歳のときで、今思えば、子どもが子どもを産んじゃったみたいな状況で、子どもたちには申し訳ないなと思うんです。おむつを替えなきゃいけない時から始まって、本当に上手に離れていくことが大切だと思うんですけど、そばにいると、20歳になっても23歳になっても、まだ子どもだ、子どもだって思ってしまうのかな。

中野 側にいると、そうなるのもしかたないと思います。

内田 だから、私たちは早めに子どもを留学させて、物理的に距離をつくったんです。それが誰にでも当てはまるとは思わないけれども、一応ひとりで暮らしてもいい年齢だったら、なるべく距離をとるというのはどうでしょう。私の場合はそうしたことがよかったんです。

中野 私も距離はとるべきだと思うんですね。視聴者の方から、母親との距離のとり方についての質問がありますね。

【続きを読む】内田也哉子「『もう少し樹木希林と距離をおいたら?』とたくさん言われた」 中野信子と考える“普通”の家族とは

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内田也哉子
1976年東京都生まれ。樹木希林、内田裕也の一人娘として生まれ、19歳で本木雅弘と結婚する。エッセイ、翻訳、作詞、ナレーションのほか音楽ユニットsighboatでも活動。著書に『会見記』、『BROOCH』(ともにリトルモア)、樹木希林との共著『9月1日 母からのバトン』、翻訳絵本に『ピン! あなたの こころの つたえかた』(ともにポプラ社)、『こぐまとブランケット 愛されたおもちゃのものがたり』(早川書房)、『ママン 世界中の母のきもち』(パイ インターナショナル)などがある。

中野信子
1975年東京都生まれ。脳科学者。東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』、『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)などがある。

なんで家族を続けるの? (文春新書 1303)

内田 也哉子 ,中野 信子

文藝春秋

2021年3月18日 発売

内田也哉子と中野信子が答える“子育て”の疑問「“働く気がしない”という子どもと“相性”が悪くて苦しい…」

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