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「人の病気や哀しさを活字にして、泣けるなんて言われると…」 水道橋博士が50歳の区切りで感じた、理不尽な“幸不幸”

「人の病気や哀しさを活字にして、泣けるなんて言われると…」 水道橋博士が50歳の区切りで感じた、理不尽な“幸不幸”

『藝人春秋』より#3

2021/08/22

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 芸能, テレビ・ラジオ, 読書, 働き方

note

人を幸せにさせるプラスの力

 その“あること”はあの話に違いない。

 ここを問い詰めるべきか否か、ボクたちも押し黙った。

 スタジオが無音となり、無色透明になった。

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 静寂(しじま)の中で、稲川淳二がまるで何かに憑依されたかのように口を開いた。

「実は15年前に、仕事とは関係ないところで、とてもイヤなことを当てられたことがあるんです。自分より辛いことね。……子供のことですよ。海外の霊能力者から予言されたんですよ……」

「……予言?」

「まだ生まれてくる前の息子が『重病で生まれてくる』って……」

「…………」

「当たったんですよぉ──。イヤな気持ちになりますよね。なぜ、自分にこんな予言が当たってしまったんだ……悩みましたよ。でね、そこで考えたんだ。なぜそれが見えるんだって。このマイナスがわかったんだってね。でもね、何か力、エネルギーがあるんだったら、つまり人間を不幸な気持ちにさせる力があるのなら、幸せにさせる力があってもいいはずだと思ったんです。マイナスがあればプラスがあってもいいはずだって。そうじゃないですか?」

「…………」

「ワタシはね、怪談話をして、そのプラスを探したいんですよ!」

 その搾り出すような声を聞いたとき──。

 決して辿り着けない、怪談芸人という底無しの井戸の深淵を覗いた気分になった。

(初出・『笑芸人』2002年冬号)

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