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《70年ぶりの抜本改革も…》改正漁業法施行で「暴力団のシノギ」としての「密漁」はどのように変わったのか

『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』より #3

2021/08/30
note

アワビ、ナマコ、シラスウナギが指定され厳罰化

 そのため、改正漁業法はこの3つを特定水産動植物に指定した(シラスウナギは令和5年12月から適用)。

 漁獲割り当ての下、許可を持った漁業者だけを例外とし、原則、採捕を禁止するのだ。限られたケースだけを例外として許可をするので、この3つの魚介類に限れば、想定外で取り締まれないような事態に陥らない。

 採捕禁止違反となれば、3年以下の懲役、または3000万円以下の罰金になる。これは個人に科せられる罰金の最高額で、限界まで厳罰化されたわけだ。

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©️iStock.com

 密漁品は裏社会の商品だが、流通の過程で表の海産物と混ぜられ、ロンダリングして一般の消費者に売られる。密漁者だけを取り締まっても密漁事犯は根絶しない。海産物を買う業者もまた、ブラックマーケットの主役なのだ。そのため改正漁業法では密漁品の流通も違法とされた。特別指定動植物を違法に採捕されたと知りながら、運搬、保管、取得、処分の媒介・あっせんをした者は、密漁者と同じく3年以下の懲役、または3000万円以下の罰金が科される。

 この大幅な罰則強化に、果たして実効性はあるのか。改正は犯罪の抑止力となったのか。文庫本の出版にあたり、ナマコの密漁天国である北海道を再取材してみた。

かなり取り締まりが厳しくなって「もう潮時じゃないか」

 懐かしい面々は、半数以上が音信不通になっていた。逮捕されて刑務所に送られたのか。暴力団の支配からとんずらしたのかは分からないが、裏社会の新陳代謝は早い。

 改正漁業法で、相応の影響はあったらしい。

 知り合いの密漁のチームもざわついたという。

「どうするんだ、このまま続けるかって議論になったよ。もう潮時じゃないか。やめどきだっていうヤツもいたね。精神的に追い込まれたのは、まずマスコミで密漁のニュースをよく耳にするようになったでしょ。世間が密漁という犯罪の規模や儲けを認知するようになれば、海保も警察も動くからね。ちょっと前に比べ、かなり取り締まりも厳しくなった。俺もさ、もうやめたんだ。これ以上密漁はできないとやめたチームは他にもまだあるよ」(自らも密漁チームを率いていた出資者。元暴力団幹部)

 かつて私が取材したチームも行方知れずになっていた。元締めだった元暴力団幹部は、呆れた様子で説明した。