暴力団の巨大な資金源となっている「密漁ビジネス」の実態を暴くべく、足かけ5年に及ぶ徹底した現場取材を行ったジャーナリストの鈴木智彦氏。同氏が食品業界最大のタブーに迫ったルポは単行本にまとめられ、各方面で大きな話題を呼んだ。
ここでは、同書の文庫版『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』(小学館)より、文庫化にあたって追加された“漁業法施行後の現状”を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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70年ぶりの抜本改革「改正漁業法」で密漁を取り締まり
本書(編集部注:単行本『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』)の出版後、自分の目が漁業に固定されていたせいだろう、第一次産業である漁業と暴力団の蜜月をよく目にするようになった。知り合いが逮捕され、報道されるケースもあった。
令和元年夏、長崎県では、駅前に出店していた居酒屋が、山口組系暴力団が密漁していた魚介類を格安で提供していた事実が明らかとなった。500円の激安海鮮丼は、周囲の店が怪しむほど豪華な盛りで、年間3000万円の売り上げがあったという。
令和2年12月1日には、70年ぶりの抜本改革となった改正漁業法がついに施行された。
漁業法は江戸時代から続くムラ社会の因習を法制化していた部分もあり、時代と不整合を起こして、現状にそぐわなくなっていたため、持続可能(サスティナブル)という視点から、水産資源保護や漁業管理を再構築している。専門家たちはそれなりに評価しており、漁業の抜本的な改革が進むと期待されている。
密漁は漁業者の財産を強奪するばかりか、乱獲に直結し、漁業管理の根幹を揺るがす懸案事項でもある。改正漁業法でも対策が強化された。特効薬として即効性が期待できるのは罰則の強化だった。これまでの漁業法では、一般人が無許可操業をして起訴された場合、刑罰の上限は懲役3年、罰金200万円だったが、300万円に引き上げられている。また漁業権の侵害もこれまでの20万円以下の罰金から、100万円以下と5倍の罰則になっている。
もちろん、この程度ならさほど抑止力にはならないだろう。密漁の儲けは莫大で、経費として考えれば許容範囲だからだ。
改正の目玉はほかにある。
密漁によって莫大な利益が得られる海産物は限られている。常に需要があり、単価が高く、採捕が容易な高級海産物だ。具体的にはアワビ、ナマコ、シラスウナギがそれにあたる。そのすべてが組織的密漁の温床になっており、暴力団のシノギになっている。
水産庁も、その実態は掴んでいた。