「最初、どうしようかなと様子見してたんだわ。施行後、警察も海保も、成果を上げようと頑張るから、おっかなびっくりだった。そのうちコロナ禍さ。北海道はひどかったからね。運悪くチーム全員が陽性になったんだ。回復しても、今度は家族がコロナになったとか言い出して、しばらく密漁はできないとなった。にっちもさっちもいかなくなって、金がないとなれば、できる技術のあるヤツは仕事したいから、すいません、移籍しますとなる。そのうちリーダー格のヤツと連絡が取れないようになってしまった。どさくさに紛れ、あいつら借金を踏み倒して逃げたというわけさ」
敗訴するも破産で逃げ切る水産業者も
また、ナマコ密漁の取材を開始した際、北海道の某市で密漁の総元締めと呼ばれていた水産業者は身売りしていた。
かなりの粉飾決算で法人の価値を偽装し、高値で売りつけて利益を出したらしく、その後、訴訟沙汰となり敗訴したという。しかし、あらかじめ財産は隠されており、最後も悪党らしい悪知恵を駆使した。破産という合法な手口を使って逃げ切ったのだ。
朝市に出店していた観光客相手の店は家族の名義なので影響を受けなかった。今もそのまま営業を続けている。コロナ禍による支援金を調べたみたところ、自治体の出した条件に合致しているので、おそらくもらえる金はもらっているだろう。
全盛期には大規模に法人を経営、卸売市場に出入りする鑑札を所持しながら、六代目山口組弘道会の企業舎弟となっていた。その看板をバックに、経営者は多くの密漁チームに出資していた。が、凋落した今は、暴力団側から名前を使うなと釘を刺されたらしい。
裏社会の法は力である。後ろ盾を失えば、密漁チームにもそっぽを向かれる。ボートや潜水具、車などを買うため、それぞれのチームに提供した1000万程度の金は、後ろ盾を失い、ことごとく回収不能となった。
「財産は残してるんだろうけど、そっぽ向かれて踏み倒され、そう意味では哀れだった」(元暴力団幹部)
が、誰かが席を下りれば、ほかの誰かが座る。密漁が儲かる犯罪である限り、いくらでも替わりはいるのだ。
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