「高級魚を食べると暴力団が儲かる」という食品業界最大のタブーに迫るべく、ジャーナリストの鈴木智彦氏は足かけ5年に及ぶ取材を敢行。暴力団の巨大な資金源となっている密漁ビジネスの実態を暴いたルポは単行本として出版され、密漁が社会問題として認知されるきっかけとなった。
ここでは、同書の文庫版『暴力団の巨大な資金源となっている「密漁ビジネス」の実態』(小学館)から、文庫化にあたって鈴木智彦氏が書き下ろした新章の一部を抜粋。新たに明らかになった密漁のリアルを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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還付金の額でわかる密漁品の売り上げ
密漁は真っ当な商行為を偽装して利益を上げる。末端の密漁団たちが懲役上等と腹をくくっても、表の住民たちに同じ芸当はできない。3000万円の罰金だって、店を畳んで完全撤退しない限り逃げられない。改正漁業法は表の企業に対して、ボディブローのように効いている。
令和3年4月26日、乾燥ナマコの加工を手がける三宮フーズ(本社神戸)の経営者が改正漁業法で新設された流通の罪で起訴された。起訴状にあるのは同年2月に110万円で買い取った390キロで、密漁ナマコを売っていた山口組系暴力団員も逮捕されている。どこまで立件できるのか分からぬが、警察は三宮フーズが長期にわたって密漁ナマコを買い取っていたと判断しているだろう。
密漁団の関係者はこう説明する。
「約半年前の12月頃、ナマコを海外に輸出してる業者に税務署が入った。密漁品は表で売りさばくから、どれだけ売ったかははっきり帳簿に残ってるのさ。それに輸出をすれば、消費税の還付金がある。売り上げの10%還元されるから、けっこうな額になってね。みんなそれをもらってた。
だから輸出してた業者がどれだけ売っていたかは、還付金の額を見ればはっきり出てる。改正漁業法の施行後は、採捕が禁止だから浜買いができず、すべてのナマコは漁協組合を経由する建前だ。業者だってセリにかけられ、高値で売られるナマコも買ってはいた。でも数字が合わない。2トンしか正規で買ってないのに、5トン売ってたら差し引き3トンは密漁だからね。
密漁ナマコを買うときは、帳簿に付けないから消費税も払わない。なのに還付金をもらってるのは詐欺になると税務署に脅された。最終的に税務署は『修正申告に応じて、その分、税金を納めてくれれば問題ない』と取り引きを持ちかけたらしい。みんな焦って応じたんだ」