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密漁に手を染めるのは暴力団だけではなく…「これだけは言えない」と海保職員が隠す“新兵器”とは

『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』より #4

2021/08/30
note

 元来、密漁は暴力団だけが儲けているのではない。漁業全体のインチキからすれば、暴力団が関与する不正など微々たるものだろう。

 考えてみれば、海は無法者の王国といえる。海洋に浮かぶ船は、実質、その一隻一隻が独立国家といっていい。建前上、彼らも法に統治されているが、周囲には海しかない。警察官もおらず、監視カメラも存在せず、スマホを構える通人もいない。

 急病になっても医者さえいない。死に至る重病でも、船長と船員がすべてを行うしかない。そうした極限状態で、法が意味を持つはずがない。船という独立国家では、人間の集団が原始に戻る。そこでは腕っ節の強さ、言い変えれば暴力だけが国家の法だ。

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海の上の無法者たちから目を逸らすな

 だから海洋国家である日本は、ならず者国家に囲まれているようなものである。銃器、違法ドラッグ、密入国者も海からやってくる。日本の海の上でも犯罪が常態化していると考えるべきだ。暴力団は躊躇なく叩ける悪人なので、彼らを取り締まれば一件落着のように錯覚してしまい、思考停止になりやすい。

 ナマコとアワビは「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」(水産流通適正化法)で取引履歴の伝達・記録義務を課すと決定しているが、シラスウナギに関しては養鰻業者が頑強にトレーサビリティの義務化に反対している。なぜ日本シラスウナギ取扱者協議会理事長が断固反対するのか、我々はしっかりと考え、漁業の行く末を見守る必要がある。

 無法者の王国は強大である。決して目を逸らしてはならない。

【前編を読む】《70年ぶりの抜本改革も…》改正漁業法施行で「暴力団のシノギ」としての「密漁」はどのように変わったのか

密漁に手を染めるのは暴力団だけではなく…「これだけは言えない」と海保職員が隠す“新兵器”とは

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