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2030年には旧耐震設計の約100万戸が築50年を迎え… 相続人、管理会社から逃げられるマンションを待つ“残酷な結末”

2021/12/28
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旧耐震基準のまま建て替えられないマンション

 ところがいっぽうで、マンションの歴史も60年を超えるようになってくると、あらたに勃発したのが、建物の老朽化問題とマンション住民の高齢化問題だ。マンションはその多くが鉄筋コンクリート造、または鉄骨鉄筋コンクリート造である。コンクリートの耐久性は一般的には50年から60年はあるとされるが、築50年を超えるマンションが出現するにつれ、建物自体の建替え問題が生じている。

 また旧耐震基準で供給されたマンションの戸数は、マンションストックのおよそ15%にあたる100万戸を超えるが、現在までの間に建替えが実施されたのは、このうちの1%程度にすぎない。建替えられないのである。

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 原因はおカネと人の問題である。マンション維持は毎月積み立てる修繕維持積立金によって賄われる。ところが、多くの管理組合で、建物の老朽化が進むと十分な修繕を行うのに必要な金額を用意できなくなる。マンション住民の間に経済格差が広がり、多額の費用がかかる大規模修繕や、建て替えに伴う追加の負担金に区分所有者の一部が耐えられなくなるのだ。

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高齢化する区分所有者から逃げ出す管理会社

 さらに、問題をややこしくしているのが、区分所有者の相続問題だ。築年数の古いマンションほど住民である区分所有者も高齢化している。そして相続を迎えたとき、相続人がマンションを引き継ぎたがらない事態が、現在多くの築古マンションで発生し始めている。都心一等地などに建つマンションならいざ知らず、郊外などにあって資産価値が減退しているマンションは、相続しても相続人本人が利用しない限り、売却や賃貸もままならないものになっている。したがって相続人が、毎月の管理費や修繕維持積立金を支払うのを嫌って、相続登記をしない、マンション管理組合に届出しないという事例が頻発している。

 これらの住戸は当然空き家化し、管理費や修繕維持積立金などが支払われないために、十分な管理ができなくなってしまう。管理が行き届かないマンションはさらに資産価値を落とすことになり、そのことに嫌気した住民が去っていく、このことがさらにマンション内空き住戸を増やす。十分な管理費が集まらないということは、これまで使っていたマンション管理会社から三行半を突き付けられる。彼らは管理費の中から報酬をもらっているからだ。住民が高齢化して意思決定能力に欠けるようになってくれば、管理会社のほうでも付き合いきれずに「お役御免」になるというわけだ。

 管理会社に逃げられた管理組合を待つのは悲惨な末路だ。専門知識も持ち合わせず、有効な対策を打とうにも軍資金が枯渇し、老朽化していく建物を、ただ指をくわえて眺めていることしかできなくなる。そして結局、自分が死ぬまで建物が保っていればよい、あきらめの境地に達する、というまさに破綻へのスパイラルだ。