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連載春日太一の木曜邦画劇場

千葉真一と真田広之の師弟が魅せる命がけの冒険。終幕、千葉は大空へ!――春日太一の木曜邦画劇場

『冒険者(アドベンチャー)カミカゼ』

2022/01/11
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1981年(115分)/東映/3080円(税込)

 二〇二一年は「千葉真一が亡くなった年」として個人的にはずっと刻まれると思う。

 千葉といえば俳優としてのキャリアも抜群だが、それだけでなくJACを創立して幾多の俳優やスタント、アクション監督を世に送り出したこともまた、後世に語り継ぐべき功績といえるだろう。

 中でも真田広之の存在は格別だ。その真田は千葉と入れ替わるようにハリウッドに拠点を移した。そして二一年には映画『モータルコンバット』でヒーロー役を演じ、見事な殺陣を披露。これがたまらなくカッコよく、作品自体はイマイチだが真田の勇姿を観るだけで満足できた。

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 日本の殺陣は世界に通じるアクション技術である。師である千葉がアメリカに渡った際にできなかったことを、ついに真田が証明してのけたのだ。しかも、その役名は千葉のかつての代名詞的な役柄でもあった「ハンゾウ」。千葉が亡くなったのは、そんな師弟の魂の結晶ともいえる作品が日本で公開された少し後のことだった。胸が熱くなる。

 今回取り上げるのは『冒険者(アドベンチャー)カミカゼ』。二人のコンビネーションが最高な作品だ。

 フランス映画『冒険者たち』に感銘を受けていた千葉自身が企画。ほぼそのままの人物関係が設定され、リノ・ヴァンチュラの役を千葉が、アラン・ドロンの役を真田が、ジョアンナ・シムカスの役を秋吉久美子が演じている。

 物語は、大学が不正に蓄財した大金を強奪しようとする大介(千葉)、明(真田)、それを横取りしようとする犯罪組織、そこに巻き込まれるケイ(秋吉)を軸に展開される。

 大介と明は当初、別々に大金を狙っていて対立関係にあった。そのため滅多に見られない師弟の直接対決が展開されるのがまず嬉しいところ。鉄パイプを使った激闘は真田に軍配。弟子に勝利を譲るところに千葉の想いが伝わる。

 初めて友情を通わせる場面は、言葉ではなくバク転などのアクロバティックな動きを交互に披露することで表現。これが両者ともに全く同じ動きのため、「師弟の絆」がその肉体の躍動をもって感じられ、なんとも微笑ましくなった。その後もニヤつきたくなるほどのイチャつきを見せてくれるが、中でもタキシードを着た二人が並んで水上スキーする場面は実にチャーミングだ。

 そして軍艦島ロケの大アクション。廃墟から廃墟へとロープで渡ったり、崖からジャンプしたり――二人の命がけの「冒険」を心ゆくまで堪能できる。

 そしてラストは、セスナに乗って飛び立つ千葉を真田が手を振って見送る。今これを観ると二〇二一年が重なり、気づけば涙が出ていた。

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