九月十三日に『文藝別冊 深作欣二』(河出書房新社)をはじめ、さまざまな機会で千葉真一から深作欣二の思い出をうかがってきた。その際にいつも思わされるのは、千葉がいかに深作を信頼し、敬愛してきたかということだ。
それは、「一監督と一俳優」という関係性をはるかに超える結びつきだった。演技だけでなく、映画そのものに対する考え方や向き合い方、その全てを深作に委ねていたといっていい。こうすれば深作は喜んでくれるのではないか。こうすれば深作は満足してくれるのではないか。いかなる現場にあっても、千葉の意識の中にはいつも深作がいた。
それは、最初の段階からそうだったという。そこで今回は、名コンビが初めて組んだ『風来坊探偵 赤い谷の惨劇』を取り上げたい。
なにせ、この作品は千葉の初主演映画にして、深作の監督デビュー作なのだ。それは偶然の一致だったのだが、まさに運命といえる出会いだった。
千葉が演じるのは探偵の五郎。赤岩岳にセスナ機が墜落した事故調査の依頼を受け、山岳で縦横の活躍を見せる。
物語は山岳の観光開発を巡る悪徳開発業者と地元住民との対立を軸に展開される。これを深作は雄大な山河をバックにした西部劇調で演出。千葉を使って、西部劇でも見られないような激しいアクションを展開させていった。
序盤からアクション満載で、悪党たちに囲まれた女性の救出に五郎が颯爽と登場、悪党を撃退する。この時、千葉が戦う場は雪渓の急斜面。見るからに足場が悪そうなのだが、それをものともせず、普通の平地かと見まがうほど平然と格闘をしてのけている。「千葉ならこんなこともできるだろう」という深作と、「深作の指示ならいくらでも身体を張る」という千葉。そんな互いの信頼感を、最初から既に垣間見ることができた。
話が進むにつれて、両者によるアクションはさらにエスカレートしていくことになる。
銃を片手に持ちながらの馬上での格闘。雪渓にダイナマイトを仕掛けての雪崩の誘発。その雪崩から必死に逃げる千葉。馬上からロープを繋いで引っ張り、牛小屋の扉を破壊。そして最後はダイナマイトが爆発しまくりながらの猛烈な銃撃戦――。六十分強という短い上映時間の中によくぞこれだけ詰め込んだと言いたくなる。そんな豊富なアイデアが、深作のシャープでスピーディなカットと千葉の全身を使った躍動感によって、ド迫力のアクションに仕立て上げられていった。
後に日本映画のアクション表現に変革をもたらす深作と千葉は、その出発点からもう最高のコンビだったのだ。