1983年(136分)/KADOKAWA/1980円(税込)

 肉体は俳優の言葉である――。これは、千葉真一がモットーとしてきたフレーズだ。

 監督のいかなる要求にも応えることのできる肉体を持つこと。その肉体によって演技表現をすること。そうした千葉のイズムは、彼と同様にスタントアクションのできる俳優を育てるべく創設したJAC(ジャパン・アクション・クラブ)の教育理念の根幹でもある。そして、その方針の下に真田広之、志穂美悦子といった卓越した肉体表現のできる若者たちが育っていった。

 深作欣二監督はそうした千葉の理念に共鳴する。一九七八年の『柳生一族の陰謀』以降、深作は大作映画を任されるようになり、大がかりで奇想天外なアクションシーンを次々と繰り出していくのだが、それはJACの存在あってこそ実現可能な表現だった。

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 今回取り上げる『里見八犬伝』はその最たるもの。

 舞台は戦国時代の南総。領主である里見家の居城・館山城は妖魔と化した母子(夏木マリ、目黒祐樹)の襲撃を受けて落城。一人逃げのびた静姫(薬師丸ひろ子)にも追手が迫る。それを助けるのが、彼女を守る使命を受けて生まれた「八犬士」たち。さまざまな仕掛けと強敵たちの待ち受ける、魔城に変わり果てた館山城に彼らは向かう。

 真田、千葉、志穂美に大葉健二。八犬士のうち四名がJAC勢というところに、深作の信頼ぶりが見て取れる。そして彼らは、見事に応えた。

 特に真田。猿のように木から木へと渡る。両手に鎌を持ちながら岩から岩へ飛び移り、回転しながら斬りまくる――。特撮満載の作品にあっても、身体の躍動により特撮以上にこの世ならざる犬士の動きを表現してのけているのだ。

 JAC勢が魅力的なのは、そうした身体を張ったシーンだけではない。「アクションとは演技そのもの」という千葉の教えもあり、「激しさ」だけでなく「美しさ」も肉体で表現しているのである。たとえば真田が笛を吹くシーンがそうだし、何よりも志穂美が田楽舞を踊る前半のシーンが素晴らしい。ここで志穂美は煌びやかな衣装をまとい桜が舞い散る中で流麗に舞うのだが、その艶やかさは思わず見惚れるほどだった。そこから一気に殺陣に転じることで、その激しさもまた際立つ。

『文藝別冊 深作欣二』(河出書房新社)で志穂美に取材した際の話によると、志穂美は撮影当時、日本舞踊を習っていたという。深作は、それを熟知していたのである。

 自身はあえて脇から支える側に回る千葉も合わせて、若者たちの才を活かそうとする二人の熱い志が、本作を一級のエンターテインメントたらしめることになった。

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