四月二十日に拙著最新刊『時代劇聖地巡礼』(ミシマ社)が発売になる。
これは、時代劇が撮影されたロケ地=「聖地」を巡りながら「どういった場面がどこでどう撮られたのか」を解説した一冊で、京都周辺の四十一カ所を取材している。
時代劇のロケ地として京都が重宝されるのには理由がある。一つには、古都だけあって神社仏閣をはじめ現代から隔絶された景色の広がる名所旧跡が数多く、しかもバリエーション豊かに点在していること。もう一つは、太秦にある松竹、東映の両撮影所からそれらの場所へは、さほど時間をかけずに移動できることだ。そのため、作り手は多くの選択肢の中からそれぞれの場面に合ったロケ地を自在にチョイスでき、現代を感じさせることのない「江戸」の映像を作り出せるのである。
我々の馴染んでいる「江戸の景色」、それは現在の京都にあるということになる。
本の最初に紹介したのは下鴨神社。ここは「糺(ただす)の森」と呼ばれる広大な原生林が広がっていて、その森の間を幅の広い土の道が通っている。普通に参拝する分には、美しい自然に囲まれた静寂の空間。まさに「聖地」だ。が、時代劇を撮影するとなると、全く異なる様相を呈してくる。
実はこの道は馬場になっているため、馬を思い切り走らせることができ、時代劇の撮影では、スケールの大きいアクション場面で使われることが多くなるのだ。
今回取り上げる『必殺4 恨みはらします』は、その最たるものといえる。
テレビシリーズ『必殺仕事人』の劇場版なのだが、深作欣二監督は主人公の中村主水(藤田まこと)以外の仕事人チームは置いてきぼり。その視線はサイコパスな奉行を演じる真田広之やゲスト仕事人の文七を演じる千葉真一といった、深作時代劇のレギュラーといえる面々に集中し、彼らに思う存分のド派手なアクションを展開させている。
その撮影の多くが行われたのが、「糺の森」だった。
馬場には長屋が連なるスラム街の巨大なセットが組まれ、ここを舞台に壮絶なシーンの数々が繰り広げられる。まず凄まじいのが、馬に乗った旗本たちによる長屋襲撃。目まぐるしい殺陣、そして容赦ない虐殺が撮られている。
さらに終盤には、ゴーストタウンと化した長屋を使って文七と奉行の凄腕の手下(蟹江敬三)の決闘が。これがまたとんでもない。大量の枯葉を舞い上げながら、豪快にセットを破壊するのである。
本作を観た後で現地に行くと、「え、こんな静かな場所で――!」と、あまりのギャップに驚かれることだろう。