1986年作品(126分)
松竹
2800円(税抜)
レンタルあり

 先日、笑福亭鶴瓶にインタビューさせていただいた。芸にではなく、役者として、だ。

 筆者は鶴瓶の芝居を高く評価している。どこまでが演技でどこまでが本人か分からないナチュラルな佇まいでいながら、ちゃんと役になっている。そして、その芝居の向こう側から醸し出されてくる様々なテイスト。それは時には胡散臭さ、卑小さだったり、時には優しさや哀しさだったり……。表面的には大きく変化させているように思えないのに、観る側にそれとなく感じさせてくる。まさに名優だ。

 そんな鶴瓶の役者としての魅力を筆者に気づかせてくれた映画が、今回取り上げる『必殺!III 裏か表か』だ。

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 本作はテレビシリーズ『必殺仕事人V 激闘編』の後日談の位置づけに当たる劇場版。主人公の中村主水(藤田まこと)ら御馴染の仕事人たちと共に、鶴瓶も「参」と名乗る仕事人役でテレビ版から引き続いて出演している。

 本作での初登場の場面、参は昨夜見た夢の話をしていた。この時、鶴瓶はひたすらニヤニヤしながら人懐っこそうな笑顔を浮かべるだけで、主張のあるハッキリとした演技はしていない。そのことでかえって、参が頭の回る人間ではないもののそこはかとないお人好しなことが伝わってきて、可愛らしさすら覚えてしまう。

 金を貰って人を殺す彼らの今回の標的となるのが、江戸の両替商組合を束ねる真砂屋(伊武雅刀)。主水が自分を探っていることを知った真砂屋は、策略によって主水を追いつめた。仕事人たちは主水を救うために立ち上がり、要塞化した島に建つ真砂屋の屋敷で最終決戦が繰り広げられる。

 死闘の中で、仕事人たちは次々と命を落とす。参もまた。

 多くの腕利き用心棒たちが目を光らせる島に、仕事人たちはそれぞれ潜伏する。参は仲間たちとはぐれ、路地裏の貝塚に隠れた。が、そこを犬に見つかってしまう。そして、すぐさまやってきた刺客たちの手により、悲鳴をあげながら、なす術もなくメッタ斬りにされる。亡骸は泥にまみれ、雨に打たれ、首は晒された。

 竜(京本政樹)や壱(柴俊夫)が激戦の最中に壮絶な最期を遂げた一方、参の死に方は情けない。だが、それがかえって鶴瓶の役者としての魅力を引き立てることになった。

 死ぬ姿が惨めなら惨めなほど、序盤で見せた人懐っこい愛嬌とあいまって、参の悲劇性がより強く突き刺さってきた。同時に、筆者の中でその哀しさは、それを表現してのけた鶴瓶の演技への称賛へと昇華していったのである。

 彼の芝居が偶然なのか、計算なのか。それは分からない。ただ、その底知れなさに凄味を感じずにはいられなかった。