1991年作品
(劇場公開版115分/完全版120分)
バンダイビジュアル
6000円(税抜)
レンタルあり

 この連載でも何度か取り上げてきたが、アニメ『機動戦士ガンダム』で知られる富野由悠季監督は、それまで子供向けに作られてきたロボットアニメを「大人のドラマ」として表現しようとし、戦場の残酷さや不条理を描いてきた。

 そして、その極限状態で発せられる、感情のむきだしになったセリフがアイロニーや毒性と混ざり合い、時に日常会話の文法からすると違和感を覚えるような、独特の言い回しが生まれた。その「富野節」が、ドラマをよりビターにして、作品を魅力的に彩る。

 今回取り上げる『機動戦士ガンダムF91』もまた、富野節がちりばめられた作品だ。

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 過度の貴族主義により「人類の九割を抹殺する」という計画を遂行する組織・クロスボーン・バンガードと、ガンダムF91に搭乗して対抗する主人公・シーブックらとの死闘が描かれるのだが、序盤から富野節が炸裂している。

 突然の敵の空襲を受け、シーブックの友人・アーサーは命を落とす。その無残な死体を必死に揺らして目を覚まさせようとするシーブック。止める友に、彼はこう言い放つ。

「だってよ……アーサーなんだぜ……」

 よく読むと、意味が通らないセリフだ。だが、だからこそ、友を突然失い、それを受け入れることのできないシーブックの理屈を超えた悲痛な叫びが生々しく刺さってきた。

 そしてクライマックス。シーブックは恋人のセシリーと共に、彼女の父で鉄仮面を被ってクロスボーン・バンガードを指揮するカロッゾが相手の決戦に臨むのだが、この時の、父娘のやりとりが、実に富野節らしいものになっていた。

「少しでも人間らしさを残しているならば、今すぐこんなことはやめなさい!」父に対するとは思えない言い回しは気になるが、この娘のセリフの文面自体は真っ当といえる。が、それに対する父の返答から、歪み始めるのだ。

「人類の十分の九を抹殺しろと命令されれば、こうもなろう!」日常では絶対に耳にできない、強烈な開き直りだ。それを受けて娘も「機械が喋ることか!」と物凄い文言の罵倒で返す。こうなると、もう両者は止まらない。父が「私を見下すとは、つくづく女というものは御し難いな」とコンプレックス丸出しに吐き出すと、対する娘はそれに身じろぎもせず「そうさせたのは、仮面を外せないあなたでしょう!」と身も蓋もないツッコミを浴びせるのである。

 宇宙空間で繰り広げられる親子喧嘩。普通のセリフ回しなら飽きてしまうだろう。それが富野節で展開されると、こうも魅力的になる。理屈を超えた言葉にこそ、人を惹き付ける力が宿るのである。