旧作邦画、特にシリーズものがDVD化される際、諸般の事情により歪(いびつ)な形でリリースされることがある。特定の一作だけが別レーベルの「刑事物語」「うる星やつら」シリーズはその典型的なものといえるが、中でも奇妙な状態で販売されている作品がある。
それが、今回取り上げる『柳生武芸帳 片目の十兵衛』だ。
表向きは「柳生新陰流の秘伝が記されている」とされながら、その実は幕府転覆を企む諸大名の連判状という「柳生武芸帳」。この書状をめぐり、剣豪・柳生十兵衛(近衛十四郎)と疋田陰流との虚々実々の死闘が描かれているシリーズなのだが、全体でいうとまだ中盤の四作目(全七作)である本作が、なぜか真っ先にDVD化されたのだ。
正直な話、筆者も面喰らった。ただ、シリーズでも屈指の面白さの作品でもあるだけに、いつかは本連載でも取り上げようとは思っていたが、一作目から三作目までのDVDが揃った上で……というのが読者にも分かりやすいと判断して、掲載を躊躇していた。
が、発売から約一年。未だ本作しかDVD化されていない状況にしびれを切らし、今回ここに取り上げることにした。
本作では、柳生武芸帳の存在が幕府の政治権力争いの道具として利用され、柳生家は危機に陥る。その名誉を回復する闘いを十兵衛は繰り広げることになる。が、風が吹きすさぶ誰もいない宿場町に現れた忍者が自爆した焼死体から始まる不穏な出だしが象徴するように、十兵衛を待ち受けるのは容易な敵ではない。
十兵衛殺害には手段を選ばない「霞の多三郎」に率いられ暗闇から迫る漆黒の忍者集団、その弟で十兵衛打倒のため血気に逸る千四郎(松方弘樹)、連判に加担したことを口止めするため十兵衛を狙う伊達政宗(山形勲)に雇われた宝蔵院胤舜らの名だたる剣豪たち……強敵がのべつまくなし、十兵衛に襲いかかってくる。いつどこで敵が来るか分からない、サスペンスフルな空間が作品全体を貫いていた。
そのため、対する十兵衛も尋常ではいられない。お供を希望する若侍を策略のため一刀の下に斬り伏せ、敵を吐かせる時には口に刃を挟ませて鬼気迫る表情で詰め寄る……と、徹底して非情なのだ。
特に凄いのは――十兵衛は最後の決闘まで戦いに勝つことはなく、強力な敵を前に必ず逃げているのだが――その際の逃げ方だ。一門の配下を次々と身代わりにして殺させ、その間に逃げるのである。
敵だけでなく主人公もまた、目的を成し遂げるためには手段を選ばない。そんな忍の世界の非情さが隅々まで描かれているため、最初から最後まで文字通り「息詰る」作品だ。