代官山蔦屋書店は都内でも有数のオシャレ・スポットだ。
そこが何を血迷ったか、レンタルビデオのフロアで「春日セレクション時代劇」の棚を展開することになり、先日さまざまな作品を選ばせていただいた。より多くの人に時代劇の楽しさを知ってもらいたいと思い、かなり幅広いジャンルから作品をピックアップしたが、そこは筆者のセレクションだけあって、代官山には全く似つかわしくない、オシャレさの欠片(かけら)もないような時代劇も多々並んでいる。
今回取り上げる『十一人の侍』も、そんな一本である。
DVDのパッケージからして破壊力がある。雨の中を物凄い形相で闘ったり叫んだりしている血まみれの侍たちの群れ――という不穏さで、目にするだけで瞬間のうちに店内の空気が一変しそうだ。
そして、なんといっても主演が凄い。あの、夏八木勲なのだ。厳(いか)つさ、暑苦しさを全身から漲らせる男だ。そんな夏八木が激しい気持ちを絶えずたぎらせて全編を芝居し通しているものだから、徹頭徹尾、男臭い世界が展開された。
時は江戸後期。忍(おし)の藩主が隣国の館林の藩主・松平斉厚(菅貫太郎)の暴虐によって殺される。忍藩の家老(南原宏治)は幕府に訴え出るも、斉厚は将軍の弟であるため握りつぶされ、逆に忍藩がとり潰されることに。理不尽な裁定に怒った家老は藩随一の剣の使い手・隼人(夏八木)に斉厚暗殺を命じる。隼人は十一人の暗殺部隊を結成して、斉厚に迫っていく。――字面にするだけで蒸し暑い空気が伝わってくる物語設定だ。
それを彩るのは、南原、里見浩太朗、西村晃、近藤正臣、青木義朗――、夏八木に負けじと、怒りでギラついた目、目、目、だった。そして、彼らのド迫力の目は、集団時代劇の名手・工藤栄一監督の手によって一つの情念として結集し、最終決戦として壮絶なうねりを巻き起こしていく。
十一人は、江戸の帰りに農家に逗留する斉厚一行を急襲する。その殺陣は十分以上にわたって、人間の顔が見えないほどのおびただしい雨の中で行われる。雨に容赦なく叩きつけられながら、彼らはのたうち回ってひたすら刀を振り、ターゲットに追いすがっていく。声にならない叫びを上げながら泥まみれになって展開される殺陣からは、なにがなんでも斉厚を斬るという、彼らの必死の想いが伝わってきた。そのためには、なりふり構ってはいられないのである。そして、大量の雨の中でも浮かび上がる、役者一人一人の強烈な目が、その想いにさらなる説得力を与えて、観る者の心を熱くさせる。
そんな「代官山らしからぬ時代劇」を、代官山で、ぜひ。