1995年作品(105分)
松竹
3800円(税抜)
レンタルあり

 中村吉右衛門主演『鬼平犯科帳』(フジテレビ)が先日、二十八年の歩みに幕を閉じた。

 これまでテレビでは掘り下げてこなかった江戸情緒を前面に出した作りは、以降の時代劇のあり方を一変させた金字塔でもあり、製作環境が苦しくなっている現状にあってクオリティを長きにわたって維持し続けたスタッフやキャストの努力には、ただひたすら敬服するのみである。

 それに合わせてこの一月六日、筆者は新刊『ドラマ「鬼平犯科帳」ができるまで』を文春文庫から上梓する。これまで書きためてきた『鬼平』に関する論考やスタッフへのインタビューをまとめた一冊で、これさえ読めば作品の全容が掴めるはずと思う。

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 そこで今回は、劇場版の『鬼平犯科帳』を取り上げる。

 盗賊たちを容赦なく斬って捨てることを許された火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)の長官「鬼の平蔵」こと長谷川平蔵(吉右衛門)と盗賊たちとの闘いを、江戸情緒や人間ドラマと共に描いていくという物語の骨格は、テレビシリーズと変わらない。ただ、松竹創立百周年を記念した劇場版だけあってキャストは豪華で、岩下志麻に藤田まことと、松竹に所縁(ゆかり)あるスターたちが鬼平と対峙する大物盗賊役に配されている。

 また、レギュラーメンバーも一堂に会しているのだが、改めて今の視点で観直して感じるのは、「時の流れ」だ。密偵役の江戸家猫八に蟹江敬三を始め、少なくない役者たちが、本作の公開から現在までの約二十年のうちに亡くなっていることに気づかされる。

 組織のナンバー2として鬼平を支え続けた与力・佐嶋役の高橋悦史も、そうだ。鬼平の相談相手を演じるには、画面映りで吉右衛門に見劣りしないだけの相応な格の役者である必要がある。その点、高橋の実績は申し分ない上に重々しい雰囲気も十分にある。そして何より、武骨で職人肌のたたずまいが火盗改(かとうあらため)そのもののようにすら思えた。

 本作の撮影前に高橋は病に冒されて余命いくばくもない状況にあった。それでもなお、作品への想いから撮影に加わった。彼が映るのは、ほんのわずか。終盤に鬼平が盗賊を一網打尽にすべく出立する際、その傍らに寄り添い「お頭」と言うのみだ。それでも、そこに高橋がいて、その一言を放つだけで、火盗改という組織の強さが迫力満点に伝わってきて、これから始まる盗賊との激闘への期待が高まっていく。これが、名優・高橋悦史の最期のスクリーンとなったが、それにふさわしい晴れ舞台として映っていた。

 この機会に本作と拙著を通して、皆様それぞれ『鬼平』と過ごしてきた「時」を振り返ってもらえれば、と思う。