有吉佐和子の『青い壺』が、とんでもないことになっている。50年近く前の作品にもかかわらず、2011年に復刊されてから累計75万部を売り上げる勢いだ。流浪する一つの砧青磁の壺を次々と手にする人々の姿を描く全13話の短編集だが、この作品、連載されたのは『文藝春秋』1976年1月号から約1年、同号の巻頭記事は立花隆の「日本共産党の研究」だった。
半世紀前の小説が、なぜ今、これほど注目を浴びるのか。書店員の丸善丸の内本店の高頭佐和子さん、NICリテールズの昼間匠さん、八重洲ブックセンター京急百貨店上大岡店の平井真実さんと、文芸ジャーナリストの内藤麻里子さんが語り合った。 『週刊文春WOMAN2025春号』より一部を編集の上、紹介する。
NHKの放送後、異常な売れ行き
内藤 『青い壺』は有吉さん没後、長らく品切れ状態でした。その時点では単行本、文庫併せて約25万5千部。復刊後、大きく動いたのは22年に原田ひ香さんの推薦の言葉を使った帯をかけたときで、約50万部に達しました。24年の年末にかけて、NHK『おはよう日本』や『100分de名著』で紹介されたことで部数は約75万部まで伸びました。
平井 お客様がレジにたくさん持ってくるなと感じたのがまさに22年。原田さんがあるインタビューで『青い壺』について話していたことから帯文を依頼したそうですが、「こんな小説を書くのが私の夢です」という推薦文は素晴らしいですよね。当店は百貨店の中に入っており、50代から70代の女性がメインのお客様です。文藝春秋の営業から「おそらく上大岡店さんで売れると思います」と言われ、レジ前で展開したら、ものすごく売れました。
あるお客さまから、「子育てで本を読む時間がなかったけれど、ようやく少し余暇ができて、本を読もうと思ったときに有吉さんの本がレジ前に積んであって、うれしかった」というお声をいただきました。その後、11月にNHKの『おはよう日本』で紹介されて。
高頭 NHKの放送後、異常な売れ行きでしたよね。
平井 ビックリしました。その世代の方は朝からラジオやテレビを視聴しているから、すぐ買いに来てくださった。一回売り切れて、すごい量の追加注文を出しました。もう、フィーバーです。