昼間 あと、50年前はまだ男尊女卑が強く残っていたと思うのですが、この本に出てくる夫婦や男女にはそんな感覚があまりない。すごく今っぽい、対等な関係性の会話をしていたりする。

内藤 描かれている経済感覚も、現代に近しい気がする。第九話に女学校の50年ぶりのクラス会で、三泊四日の京都旅行をする話があります。せっかく楽しみに意気込んできたのに、切り詰めた節約旅行に、主人公の弓香は不満を持ってしまう。情けなくなってきたところで向かった東寺の弘法さんの縁日で、「三千円で、どないです」と言われ、壺に惹かれていた弓香はその金額だったら安いと壺を買う。原田ひ香さんも、あるコラムで指摘していましたが、3000円って今の感覚に近くありませんか?

平井 3000円なら、と思う価格ですよね。でも弓香は思い切って30万円の小遣いを持って旅行に臨んでいます。現在だと70万円ほどで、かなり思い切った金額ですよね。

ADVERTISEMENT

内藤 ちょうどこの頃は高度成長期も終わり安定成長に入った時代でした。今はバブルも遠のき、インフレの低迷期に入っているので、金銭価値は違うにもかかわらず金銭感覚は近いのではと思いました。

「文藝春秋」1976年1月号の表紙と『青い壺』連載第1回

昼間 第六話の銀座のバーの話では、戦争を経験した世代と、経験していない世代が客として登場して、半世紀前の世の中を感じる。それでも、今と変わっていないと思えるのは、抱えている課題や精神性が現代でも切実だからでしょう。そうすると、実は人間はあまり変わっていないのかな(笑)。

平井 そうかもしれない。だから読んでいても親和性が高いですね。

復刊が決まった『夕陽カ丘三号館』

『夕陽カ丘三号館』の時代を感じる箇所

昼間 他の有吉作品でも、文藝春秋から復刊が決まった『夕陽カ丘三号館』は、憧れの団地に入居したエリート商社マンの家族が、妻同士の情報格差や、息子の受験戦争に振り回されたりといった人間模様を描いていて、いわゆる”タワマン文学”の先駆的作品だと聞きました。