高頭 それにしても、どうして有吉さんは53歳で亡くなってしまわれたのかなと思っちゃいます。存命なら94歳、今もお元気だったら、メッチャ面白いものを書いたんじゃないかと思うと……。

平井 45歳で『青い壺』という作品を書き、社会のことをこれだけ見通していらしたってすごいこと。

ポップな話かと思ったら、終幕はもはやホラーでした(笑)

内藤 では、『青い壺』の中でお気に入りは?

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平井 第一話と第五話が好き。青い壺ができあがる第一話は、陶芸家夫婦の関係性が素敵だと思います。第五話は、目が見えなくなった緑内障のお母さんを娘が引き取る話。うちの母も白内障で、本が好きなのに目が見えなくてつらいといって手術しました。それもあって、兄嫁に邪険にされるのを陰で見ている娘の気持ちは、「ああ、切ないな」と思いました。

高頭 そして、老人病院で治療したお母さんは、目が見えるようになって娘と喜ぶのも束の間、手術が無料なことを知り「そんな馬鹿なことはないよ」と怒りだす。その精神性って今はないですね。

平井 「すごい高額だった!」って怒る方はいらっしゃるかもしれないけど。

高頭 戦前生まれの女性の慎みのような気持ちって、祖母を見ていたのでなんとなく分かります。こんなに私はよくしてもらったのに、何もお礼をしないのは「お天道さまに申訳がないよ」と。

平井 それで結局、青い壺を医者にお礼として渡すことになります。

昼間 私は男性が主人公の第二話が怖かった。最初は、定年した夫の世話が面倒と妻が愚痴るポップな話かと思ったら、終幕はもはやホラーでした(笑)。定年を迎えた夫は、世話になった副社長にお礼を渡してこいと妻に言われ、壺を持って会社に行く。そして何とそのまま自分が元いた席に座って伝票をめくり、判を押し始めるんです!

高頭 その後の第四話で副社長は、その壺を「誰かにやってくれ」「見るのも嫌だ」と言う。

平井 いたたまれないですね……。第四話は、遺産を目当てに生前贈与や兄弟での権利放棄の話を母親にする様子も、ドキッとしました。

●座談会の全文は 『週刊文春WOMAN2025春号』でお読みいただけます。

文:内藤 麻里子 写真:鈴木七絵

内藤麻里子(ないとうまりこ)/文芸ジャーナリスト。2000年から毎日新聞社で文芸担当、19年退社。

平井真実(ひらいまみ)/八重洲ブックセンター京急百貨店上大岡店副店長。本屋大賞実行委員。

昼間匠(ひるまたくみ)/リブロ池袋本店を経てNICリテールズ株式会社商品本部書籍仕入部部長。

高頭佐和子(たかとうさわこ)/丸善丸の内本店文芸書担当2階売場長。本屋大賞実行委員。

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