定年後の夫が元の会社で見せる“奇行”を書いた第二話はホラー

高頭 それに、ちょっと予言的じゃないですか。例えば、定年した夫が家にいてうっとうしいと書いている第二話です。

寅三が会社をやめて半年たつと、千枝は遂に音をあげてしまった。夫が、くる日もくる日も毎日家にいるという生活は、千枝が結婚して以来、初めての経験であったし、おまけに寅三は家の中ではガスに火ひとつ点けることもできないほどの役立たずなのである。(第二話) 

 80年代の「亭主元気で留守がいい」というCMを思い出しました。『青い壺』の単行本は1977年刊行なので、CMよりも10年ほど早いのですが。

高頭佐和子さん

平井 「とにかく男って(かさ)(だか)いでしょう。邪魔っけなのよねえ」なんてセリフも出てくる。

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内藤 有吉さんって、何となく潜在的に思っているんだけど、はっきり言葉にしていなかったものに形を与える力がありますよね。『恍惚の人』も、今で言う認知症をはっきり言葉にして物語にして見せた。

いまは長編よりも、短編やアンソロジーが人気

高頭 あと、短編集だから素敵な話も、欲望を書いている話もあって、人間ドラマとしての面白さがある。だから、誰が読んでも何らかのツボにはまる部分がある。かつ、重苦しくない。今、重いものは読者にウケなくなっている印象があります。長編よりも、短編やアンソロジーが人気なんです。

平井 そうです、そうです。

内藤麻里子さん

昼間 映画でもたまにありますけど、経管の壺が主人公的な存在感を放つ面白い側面があることが、装丁やあらすじから分かって、引き寄せられるんじゃないですかね。壺はどの回にも何らかの形で姿を現すのですが、話によっては描かれるのは一瞬だけだったりする。と思うと主人公の語りだけで進む一話もあったりと、読者が飽きない。