恋愛や性愛を突き詰めた村山由佳さんが、新作小説『PRIZE―プライズ―』で書いたのは「作家の業」だ。“直木賞が欲しい”という渇望が、50がらみの人気女性作家を空回りさせていく。編集者や先輩作家への要求、そして伴走する編集者も賞を目指して一線を越える怒涛の展開の先に、壊れた人々はどうなってしまうのか。仕事をする全ての人に贈る究極の波乱小説、『PRIZE』についてのインタビューを『週刊文春WOMAN2025創刊6周年記念号』から一部編集の上、ご紹介します。

“承認欲求”を描いた村山由佳さん

創作者の“業”を正面から見据えた作品を書いてみたかった

―主人公の作家・天羽(あもう)カインの書店でのサイン会から幕が上がりますが、なぜ創作者の“業”をテーマに小説をお書きになったのでしょうか。今まで文学賞をめぐるユーモア小説はありましたが、直木賞が欲しいと正面切って、しかも書くことを突き詰めた小説はありませんでした。

村山 承認欲求にはきりがない。きりがないことは分かっているけれど、でもやっぱり一度は自分の思っている正しい認められ方をしたい。そこが満たされないとすごくつらい。私も経験があります。作家生活も31年目に入ったのですが、その欲求を正面から見据えて、自分の傷を広げながら書いてみたいという目標がありました。

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 もちろん、作家として文学賞のために仕事をしているわけではないけれど、くれるならば大歓迎。その気持ちをきっちり書けば、手ごたえのあるドラマになると思ったんです。文学賞というと作家に限りますが、世間の賞賛や、会社内での評価が欲しいというのは、あらゆる仕事をする人、アーティストにとって共通したものなのではないでしょうか。