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連載春日太一の木曜邦画劇場

剣豪が醸す迫力――高橋英樹が再び剣を取る日は来ないのか!――春日太一の木曜邦画劇場

『秩父水滸伝 必殺剣』

2021/04/13
1965年(89分)/日活/4180円(税込)

 少し前に、高橋英樹がこれまで出演してきた映画やドラマの台本などを処分したというニュースがあった。数々の名作・人気作に出られてきた方だけに、どれだけ貴重な資料が消失してしまったのだろう――そう思うと、その時は目の前が暗くなった。

 高橋英樹といえば、近年ではバラエティ番組への出演が主になってしまったが、やはり幾多の時代劇で見せてきた堂々たる芝居、そして豪快な立ち回りには他を圧倒する魅力があった。そうした実力を発揮できるだけの作品が昨今ほとんど作られなくなってしまったことがこのような話になったのかもしれない。その後、高橋はブログで否定したものの、依然として壊滅的な状況が続く時代劇作りの現状を改めて嘆かざるをえなくなる。

 そこで今回は、剣劇役者としての高橋英樹の魅力を堪能できる作品『秩父水滸伝 必殺剣』を取り上げてみたい。

 舞台は明治十七年の秩父。当地では剣術が盛んで、中でも小野派と甲源という二つの一刀流の剣術流派が競い合っていた。両者は秩父神社で年に一回開催される奉納試合で、互いの代表を出して決闘することになっている。

 高橋が演じる早乙女玄吾は、「秩父の小天狗」の異名をもつ、小野派の剣士。若くしてその名を轟かせる剣豪だ。一方の甲源には岡田伝七郎(二谷英明)という使い手がいて、情け容赦ない冷酷な戦いぶりは「鬼」と恐れられていた。

 挑発する伝七郎と耐える玄吾。奉納試合で戦うことになる両者の闘争を軸に物語は展開され、それに自由党が貧農たちと組んで政府相手に決起した「秩父事件」が絡んでくる。伝七郎は決起した一党に参加するが、やがて裏切り生き延びて秩父に戻ってくる。

 とにかく、高橋英樹の剣士ぶりが颯爽としていて凜々しい。剣術興行の舞台に乱入して見せる鮮やかな竹刀さばきに始まり、打倒・伝七郎に向けての猛然とした稽古、悪党たちを打ちすえる手刀。そして、最後に訪れる伝七郎との緊迫感あふれる決闘。――どこを切り取っても剣士としての魅力にあふれていた。

 周囲が秩父事件に向けて大きく動乱していく中、ひたすら剣術に向き合おうとする玄吾の純粋さが実にはまっており、高橋英樹が「剣」があってこそ輝く役者なのだと、つくづく思い知らされる。また、秩父の雄大な山々の景色も、この役者ならではのスケールにぴったり合っていた。

 この時から既に五十年以上が経っているが、たとえバラエティ番組に出ていても高橋英樹には今でもどこか剣豪のような迫力が醸し出されている。その魅力が再び発揮される日が来ることを、切に願う。

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