拙著最新刊『時代劇聖地巡礼』(ミシマ社)は、京都周辺の時代劇のロケ地を巡り、「どんな場面がどこでどう撮られたのか」を解説した一冊だ。
オススメしたいのは、まず本書を読んでいただく。次に、そこで取り上げられた作品について、ロケ地を意識しながら観る。そして最後に、現地に実際に行く――というステップの踏み方。そうすることで、現地に行った際に「あ、あの場面と同じ場所だ!」という感激に浸れるし、なんならその場面で俳優が演じたのと同じ動きやポーズをして「なりきる」喜びも得られる。これぞまさに、「聖地巡礼」ならではの醍醐味といえる。
さらに、劇中と現地とで全く空気感が異なることに気づくと、「え、ここで撮られたのか!」という驚きに出会えるし、同時に、雰囲気を変えてのけた作り手に対してリスペクトを抱くこともできる。
前回取り上げた『必殺4 恨みはらします』がまさにそうだったが、深作欣二監督は、そうしたメタモルフォーゼの名手だ。今回取り上げる『忠臣蔵外伝 四谷怪談』でも、その力は発揮されている。
本作は「四谷怪談」の主人公・民谷伊右衛門(佐藤浩市)を赤穂浪士と設定することで、「忠臣蔵」と「四谷怪談」双方が見事にリンクされた。
そして、展開の要所要所で京都のロケ地を意外な使い方をしていて、物語を盛り上げる効果をあげている。
たとえば序盤、全ての発端となる「松の廊下」の刃傷事件。ここで浅野内匠頭が吉良に斬りつけるのだが、内匠頭を演じるのが真田広之。そのため、大暴れして本当に吉良を斬ってしまうのではという激しい動きを展開している。
これを撮ったのが、東福寺の方丈にある縁側。実際に行ってみると、ここであのアクションをさせたのか――と驚愕するほどの、静寂の場だ。
さらに凄いのは終盤。吉良の家臣・伊藤喜兵衛の孫娘・お梅に見初められた伊右衛門は浪士仲間やお岩を裏切ることになるのだが、その闇に誘うのが顔を真っ白に塗った石橋蓮司、蟹江敬三、渡辺えり、荻野目慶子なので、亡霊以上に恐ろしい。そして、面々が待ち受ける屋敷に伊右衛門は入っていく。その入り口に続く道の石畳が湿っていて、とにかく不気味なのだ。ここなら、あの面々がいてもおかしくないと思わせた。
で、それを撮ったロケ地は大覚寺。普段は風情以外の何ものも感じられず、とてもあの白塗りの面々とは結び付かない。それだけ、空間の雰囲気を変えてのけているのである。これぞ演出だ。
『時代劇聖地巡礼』を片手に現地へ行き、ぜひとも深作マジックを堪能してほしい。