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「いいよいいよ、逃げてもいいよ」と伝えてくれた、今年のテレビドラマ3本の傑作

それは、石田ゆり子の一言からはじまった

2017/12/29
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「いいよいいよ」という逃避への肯定 『カルテット』(TBS系)

 松たか子、満島ひかり、松田龍平、高橋一生。これ以上のものは今後ないのではないかという演者陣の組み合わせに、脚本、演出、音楽、美術、ロケーション……それぞれの分野がハイレベルに重なったこの合奏を、2017年のベストに選びたい。

 1月期放送のドラマだが、SNS上での熱狂もあり、まだまだ記憶に新しいのでは。3話で発された真紀(松たか子)の「いいよいいよ」という逃避への肯定を思い出したい。すずめ(満島ひかり)のもとに、長年音信不通だった父の危篤の報が舞い込む。どんなに疎遠とは言え、家族の死に目に駆けつけるのがこの世界の常識。しかし、すずめはそれを拒み、真紀もまたそれに同調する。「死に際の父の手を握り、涙を流しながら全てを許す」、そんなドラマのセオリーはことごとく裏切られる。

《病院行かなくていいよ
カツ丼食べたら 軽井沢帰ろう
いいよいいよ
みんなのとこに帰ろう
わたしたち同じシャンプー使ってるじゃないですか?
家族じゃないけど……
あそこはすずめちゃんの居場所だと思うんです》

『カルテット』

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 家族という血の繋がりに縛られた共同体を否定し、同じ匂いを纏った4人の不可思議な関係性を支持する。それは、秘密と孤独で結びついた実に曖昧な繋がりだ。そんなトーンに同調するようにドラマは、サスペンス、ノワール、ラブストーリー……とジャンルを混濁させていき、人間の白とも黒ともつかない複雑な感情を描き切っていく。ドラマはまだまだ誰も観たことのない領域を描くことができる、そんな確信を抱かせてくれた1作である。