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「今度は雅子さまと一緒にいらしてください」へのお答えは? 天皇陛下の歩き方は“ノッシノッシ”、山登りで鍛えた驚くべき“脚力と忍耐力”

大木賢一氏インタビュー #2

genre : ニュース, 皇室

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山登りは基本的に「忍耐」

――「陛下ほど克己心の強い人はいない」と関係者から聞いたことがあります。そういうご性格は山登りと共通する点があると思いますか?

大木 あるでしょうね。山登りは基本的に「忍耐」ですから。長い時には十数時間以上も「忍耐」し続ける。南アルプスの甲斐駒ケ岳(2967メートル)の「黒戸尾根」は「日本三大急登」の1つで、頂上までの標高差は2200メートル。10時間近い登りがひたすら続きます。「甲斐駒」と呼ばれるこの山は、中央線の車窓から見ると、一種異様とも言える堂々とした山容が眼前に迫ってくるんです。陛下は甲斐駒を登った後、移動中にこの山を目にする度に思い出されるようで、当時案内をした人へ侍従から何度も電話があったそうです。

1998年5月、那須岳で登山を楽しまれた ©文藝春秋

――陛下のご趣味が登山というと、上皇さまはテニスがお好きですよね。「どうして好きなんですか?」と学習院時代のご友人に聞いたところ、「勝ち負けが決まるから」と。テニスでは誰もが試合に集中して勝ち負けにこだわるわけだから、自分が皇太子ということはあまり関係なくフラットにやれる、というお話だったんです。

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大木 周囲が特別扱いしないから。

――「だから上皇さまはテニスがお好きなんですよ」と言われて、ああそうかと。陛下は誰か相手と勝負するのではなくて、「自分と勝負」みたいなところがあるじゃないですか。勝負というか、ご自分と向き合っている感じ。スタンスの違いが出ているなと思ったんです。

大木 なるほど。上皇ご夫妻と職員のテニスでは、やはり職員たちは返しやすいボールを心がけたりしているでしょうし、完全にフェアな状態ではないと思いますけれどね(笑)。天皇陛下の場合は、どちらかというと登山を通して「たまたまそこにいた人」たちの中へ入るということをやってみたかったんじゃないかなと思いますね。山小屋での思いがけない出会いのように。それと、雄大な自然の中で、窮屈な自分の立場を忘れて自由になれる大切な時間だったのだと思います。

陛下にとって最後の登山

――陛下にとってはまさにライフワークであった登山が、コロナ禍や警備の問題で、即位後なかなか実現しそうにありません。ひょっとしてもう登られないのかな……と思ってしまったりするんですけれども。

大木 天皇となった今、登山を続けられるのかと言いますと、陛下ご自身が諦めているような節もあります。陛下にとって皇太子時代最後の登山になったのは、2017年、八ケ岳の天狗岳(2646メートル)でした。下山した後で案内役を務めた山小屋の人と別れるとき、その人が「また来てください」と伝えたそうなんです。それに対して、陛下は少し口籠ったといいます。「もう私は」ということをおっしゃったようです。これは即位したらもうできないということだったのかもしれません。ただ、その言葉を受けた人自身はそういう風に解釈していませんでした。正確に言うと、「今度は雪の季節に雅子さまと一緒にいらしてください」と伝えたそうです。そのことに対して「それはできません」という意味でおっしゃったんじゃないかという見方もある。雪の季節に陛下は登山をしないのです。

2020年1月1日、各国の駐日大使らとの「新年祝賀の儀」に臨まれる天皇皇后両陛下と皇族方 ©時事通信社

 天皇になったからには、警備にこれまで以上の厳重さが求められるのは必至です。皇太子時代は、通常3~4人グループで歩いていましたが、数百メートル離れた前後を警察や宮内庁関係者ら約20人ずつが進み、茂みに警官が身を隠していました。