天皇皇后両陛下は、コロナ禍で現地へ足を運ぶことが困難な時期を乗り越えて、今年10月は栃木県と沖縄県を、11月は兵庫県を訪れられ、久しぶりの地方訪問を果たされた。9月には、英エリザベス女王の国葬に両陛下が揃って参列され、結果的にではあるが、この訪英が両陛下のご活動の広がりを後押ししたように見える。

 共同通信社会部編集委員の大木賢一氏は、宮内庁担当をきっかけに長年皇室の取材を続け、天皇陛下の即位後は、陛下が幼少期から魅了されてきたという「登山」の観点から新聞連載「山と新天皇」を企画(2019年9月19日、「陛下の峰々」として47NEWS掲載)。全3回にわたる大型特集からは、実直で忍耐強く、ユーモアあふれる天皇陛下のお人柄が伝わってくる。なぜ天皇陛下と山をテーマに選んだのか。大木氏に山の世界の取材を通して見えた天皇陛下の実像について、あらためて話を聞いた。(聞き手・佐藤あさ子、全2回の1回目/後編に続く)

2002年8月、沼原湿原を散策されるご一家。白い帽子とシャツ、赤いズボン姿の愛子さまは楽しそうなご様子 ©時事通信社

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天皇陛下と雅子さまの沖縄ご訪問

――天皇陛下と雅子さまが国民文化祭と全国障害者芸術・文化祭へ出席されるため、沖縄ご訪問を果たされました。11月12日、13日は、全国豊かな海づくり大会へのご出席のため兵庫県を訪問されています。

 雅子さまは療養に入られる前の1997年7月ぶり、そして陛下も2010年7月ぶりに沖縄へ赴かれたということで、10年以上が経っていることに驚きました。一方で、上皇さまと美智子さまは計11回訪問されていますね(皇太子時代は5回)。

 上皇ご夫妻が初めて沖縄を訪問された1975年7月、火炎瓶を投げつけられた事件を契機に、住民を巻き込んだ唯一の地上戦を経験した沖縄に寄り添う姿勢を示されてきました。

10月23日、第37回国民文化祭と第22回全国障害者芸術・文化祭(美ら島おきなわ文化祭2022)の開会式に出席された天皇皇后両陛下 ©時事通信社

大木賢一氏(以下、大木) 戦争の記憶を語り継ぐ上で、上皇ご夫妻の果たした役割は確かに大きいと思います。今回の訪問は、陛下の即位後初の沖縄ということで、「上皇ご夫妻の姿勢をどう受け継ぐのか」という点にばかり報道の焦点が集まりましたが、私は違和感を覚えました。「沖縄に寄り添ってきた」とされる上皇ご夫妻に対して、「いや、私は寄り添いません」という天皇などいないだろうし、「上皇ご夫妻の思いを受け継ぐ」というのは、現場を見るまでもない当たり前のことだと思ったからです。

 それよりも私は、両陛下が「戦争を知らない世代」にしかできない役割を果たしてほしいと思います。「知らないけれど記憶を継承する」というのは、当たり前ですが「戦争を知っている世代」にはできない、新しい仕事です。その新しい仕事の形のようなものをぜひ天皇陛下に示していただきたい。それと同時に、陛下が今年5月の沖縄復帰50周年記念式典で「沖縄には、今なお様々な課題が残されています」と述べられたように、過去だけでなく、現在の沖縄が直面する日常の現実に真摯に心を寄せてほしいと思います。

――大木さんは2006年から2008年、共同通信の社会部で宮内庁担当でした。その経験から、2019年の代替わりの節目に新天皇の特集を組むことになった。

大木 2019年4月に上皇さまが退位されたとき、マスコミ各社がこれまでの歩みを特集するにあたり、「慰霊の旅」や「被災地訪問」といった平成皇室において重要なテーマに関するエピソードを上皇ご夫妻は数多く持っており、紹介できる内容がたくさんありました。しかし、新しいお2人にはどのようなエピソードがあるだろうかと考えてみても、あまり見当たらないのが正直なところでした。雅子さまの適応障害もあり、お2人そろっての活動も限られていました。