天皇皇后両陛下は、コロナ禍で現地へ足を運ぶことが困難な時期を乗り越えて、今年10月は栃木県と沖縄県を、11月は兵庫県を訪れられ、久しぶりの地方訪問を果たされた。9月には、英エリザベス女王の国葬に両陛下が揃って参列され、結果的にではあるが、この訪英が両陛下のご活動の広がりを後押ししたように見える。
共同通信社会部編集委員の大木賢一氏は、宮内庁担当をきっかけに長年皇室の取材を続け、天皇陛下の即位後は、陛下が幼少期から魅了されてきたという「登山」の観点から新聞連載「山と新天皇」を企画(2019年9月19日、「陛下の峰々」として47NEWS掲載)。全3回にわたる大型特集からは、実直で忍耐強く、ユーモアあふれる天皇陛下のお人柄が伝わってくる。即位後の登山はまだ実現していないが、今後はどうなるのか。大木氏にあらためて話を聞いた。(聞き手・佐藤あさ子、全2回の2回目/前編から続く)
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陛下の歩き方は「ノッシノッシ」
――陛下はすごく健脚だと聞いたことがあるんですけれども、登山へ同行経験がある人の中にはその脚力に驚愕する人がたくさんいたそうですね。
大木賢一氏(以下、大木) 1994年9月、北海道・知床の羅臼岳(1661メートル)を案内した地元博物館の元学芸員の方によると、陛下の歩き方は登山の基本とされる「小股でそろりそろり」とはほど遠く、「ノッシノッシ」という感じだったそうです。そして陛下は非常な汗かきだったと。私が一度、同行取材でお見かけしたときは、髪一つ乱れず、という感じを受けましたが。別の登山同行者はヒマラヤ登山経験者でしたが、「陛下に登れない山なんかないと思った」と太鼓判を押していました。
――皇太子時代の陛下の登山では、各社の宮内庁担当記者が同行することもあったんですよね。
大木 記者たちは後ろをついて一緒に歩くわけではないので、実際にどういう歩き方をされるのか見たことがありませんけどね。
――山頂へ到着された陛下は、いつもの落ち着いた感じなんでしょうか? ゼーハーしているのではなくて……。
大木 そうですね、呼吸が乱れたという話は聞いたことがないです。
――たとえば山小屋での肉声を報じられたら、より親近感が湧くと思いますが、そういうわけにもいかないんでしょうか。
大木 平成の時代から「開かれた皇室」になったとよく言われますけれども、私は「国民との距離」はともかくとして、記者との距離はどんどん遠くなっている気がするんです。古い本で『新天皇家の自画像』(文春文庫)という記者会見録を紐解くと、皇太子妃時代の美智子さまが、本当に近い距離のところで記者たちと話している。当時は記者がタバコをくわえたら火をつけてくださったとか、そんな話もあるくらいです。平成の時代はむしろ、自然な姿よりも、「演出された姿」を多く発信した皇室だったと思っています。