――陛下は「執務」で閣議のある火曜と金曜には皇居・宮殿で書類を決裁しなければならないし、皇太子時代よりもっと窮屈になるんですかね。
大木 たとえば急に内閣改造や大臣の交代が起きて、認証官任命式に臨まなければならないときもありますね。そんな時に山の中にいるわけにはいかない。那須御用邸のご静養で近くの山に登られるようなことはあると思いますが。
「登山」こそが天皇陛下の人間味
――山というと一見地味な感じがするんですけれども、陛下にとっては山がなければあまりにも彩りのない無機質な人生だったのではないか……という気さえしてきます。
「山と新天皇」を読んで、これこそが天皇陛下の人間味なんじゃないかなと思ったんです。でも、こうしてお話を伺っていると、もう登山はできないかもしれないし、これまでもお約束事が多く大変だったんだなと。この人間味こそがカギで、お人柄が伝わる。たとえば雅子さまがパレードで涙ぐまれたら「皇族が泣くのはおかしい」という声が必ず起きるように思いますが、感激して涙を流すことは、別に悪いことではないと思うんですけどね。
大木 ある案内役の人は、「陛下に会うまではものすごく緊張するんだけど、少しお話しすると完全に打ち解けて、緊張感を解いてくださる」と。特集の取材を通して、そんなことを言う人が多かったです。
――「雅子さんのことは僕が一生全力でお守りしますから」と陛下が宣言された、1993年1月19日の婚約内定記者会見で、雅子さまも同じようなことをおっしゃっていますね。
「私はやはり、最初にお目にかかったときはたいへん緊張しておりまして、緊張してごあいさつを申し上げたんですが、そのあとは何か意外なほど話が合ったといいますか、話が弾んだのを覚えております。ですからそのとき私が受けました印象は、とても気さくで、かつすごく配慮のある方だということでございました」
大木 ああ、そうでしたね。そういうお人柄なのでしょう。多くの山好きを訪ねて日本中を巡る楽しい取材でしたが、話を聞いた全員が「これからも山に来てほしい」と口をそろえました。陛下には自然の中に身を置く素朴な人であり続けてほしい。2017年の天狗岳を最後にしてほしくない。その思いは誰も同じでしょう。
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