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“史上最高の2区”を生んだ近藤幸太郎と吉居大和…箱根駅伝2023「細かすぎる名場面」往路編

“史上最高の2区”を生んだ近藤幸太郎と吉居大和…箱根駅伝2023「細かすぎる名場面」往路編

2023/01/04
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【2区】“史上最高”の2区を生んだ近藤選手と吉居選手の絆

西本 1区の冒頭でもお伝えしましたが、今回の2区は各校のエースが勢揃いしました。

ポール 駒澤大学の田澤廉選手、中央大の吉居大和選手、青山学院大の近藤幸太郎選手、順天堂大の三浦龍司選手、東京国際大の丹所健選手、東洋大の石田洸介選手、早稲田の石塚陽士選手、日体大の藤本珠輝選手…本当にエースが勢揃いでした。

西本 さらにメンツだけでなく、戦い方もすごかった。事前の予想では中央大の吉居選手は3区に配置され、2区は田澤選手と近藤選手の一騎打ちと見られていたのが、吉井選手が割って入ってきたわけです。

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右から吉居、田澤、近藤。2区のデッドヒート ©️時事通信社

ポール 走りにも三者三様の特性が出ましたよね。

西本 吉居選手は飛び出して行けるところまで行くタイプ。田澤選手はこの1年フル稼働で疲労が溜まっているうえ、12月にコロナに感染して絶好調とは言えない。ただし過去2回2区を走っていますから、抜きどころと頑張りどころをしっかりと把握している。

 そして近藤選手にも田澤選手が本調子ではない、という情報は耳に入っていたでしょう。絶好調の田澤選手は手がつけられないでしょうが、本調子でなければ勝機もある。この3人の思惑が権太坂辺りから動き出すという最高のドラマが展開されたのです。

 トップと9秒差でタスキを受け取った吉居選手は、すぐに田澤選手を抜き去ります。コースを熟知した田澤選手はそこで慌てない。体力を温存して12キロ付近で一気に吉居選手を抜き去ります。

 一方、出遅れた近藤選手は、10キロ手前で並走していた創価大のムルア選手と山梨学院大のムルワ選手に追いつきます。ムルアとムルワ…この2人の留学生は名前もリズムもそっくりでまるで、漫才コンビのよう。“ケニア系凸凹漫才コンビ ムルア・ムルワ”(と、勝手に名付けてしまいましたすみません!)をうまく風よけにしながら体力を温存してハイペースな序盤をしのぎます。そして15キロすぎの権太坂で、前半に力を使ってしまい落ちてきた吉居選手を捉えるのです。

 ただ、近藤選手のターゲットは田澤選手。そこで吉居選手に「ついてこい」とジェスチャーを送り、2人で田澤選手に追いつき、最後までもつれた展開になっていくのです。

ポール 近藤選手と吉居選手は愛知県豊橋市にある「TTランナーズ」という同じクラブチームに所属していた先輩、後輩。絆を感じましたよね。

西本 そうなんです。だから、これは3人単体の勝負ではなく、最強ランナーの田澤選手をTTランナーズが2人がかりで倒すというドラマだったわけです。レース後、吉居選手はインタビューで、「幸太郎くんが連れていってくれた」と。先輩なら普通なら「さん」づけのところ「くん」づけしていたのも良かった。先輩を「くん」づけするのはジャニーズかJリーガーくらいですからね。

 今回の区間賞は吉居選手が取りましたが、実は一昨年の日本インカレで吉居選手は近藤選手に負けています。そのときのゴール後、近藤選手は吉居選手に駆け寄って、健闘を讃え合っていたんですね。

近藤(左)と吉居、一昨年の日本インカレでの2ショット ©️EKIDEN NEWS

 とても良い光景だったので、その様子を写真に撮り、近藤選手に送ったところ、すぐに「大和くんにも写真をあげてもいいですか?」って連絡が来た。それぐらい2人は仲良しなんです。

 ちなみにTTランナーズの練習には箱根駅伝で2度区間賞を取り、現在は駒澤大学でコーチを務める高林祐介さんも参加されていて、それが縁で高林さんが主催する「ランフェス in 豊橋」というランニングイベントには、吉居選手と近藤選手、そして4区を走った吉居選手の弟の駿恭選手もゲストで参加していました。この3人が揃えばイベントは大盛況間違いないでしょう。