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「女性人気は出るだろうけれど…」男は笑わない? チャラけて見えていたパンサー向井が“才能開花”したきっかけ

『東京芸人水脈史 東京吉本芸人との28年』より#1

2023/02/23
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センスって何?

「センスがいい」という言葉があります。大喜利の回答などに対してよく使われる言葉です。自分も多用してしまうのですが使う時にとても気をつかいます。

 自分は映画ばかり観ています。映画は時代の先をいく設定を持ってきます。『ソードフィッシュ』(2001年)という映画を観た時に「お笑い界は時代に取り残されないだろうか」と考えたことがあります。銀行強盗の映画なのですが、ハッキングでお金を奪うので、現金の描写が出てこないのです。口座にお金を移すために移動する数字だけが映るのです。そこに緊迫感があるのです。

 その頃のお笑いは銀行強盗のネタをやれば次のような展開でした。銀行に強盗が拳銃を持って現れ「金を出せ」と脅します。行員が「お金はこれしかありませんが、これなら……」と何かを出します。いわば、何を出すかにセンスが問われていたのです。モノや言葉の大喜利でしかないのです。

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 自分のことを「ベタ」と認識している芸人はいいと思います。しかし、ただ言葉のチョイスだけをもって「センスいいでしょう?」とドヤ顔してくる芸人を見て「そうじゃねえんだよなぁ……」と思ってしまったのです。

 そもそも「銀行強盗」という設定からして昭和じゃないでしょうか? その数年後には重機でATMごと持っていくという強盗事件が多発しました。もはや、現実が想像を超えてねえ?と考えてしまったのです。

 これだけスマホが普及した時代に「オマエ、昨日なんで遅刻したんだよ」というネタをやる芸人が今でもいるのです。その後の展開によほどの意外性があるか、ボケに天然で強烈なキャラクターでもない限り見ていられません。

 言葉のセンスはもちろんですが、自分としてはネタの設定にセンスのあるほうが魅力あるなぁ~と思うのです。

 パンサー・菅が畑中しんじろうとハイアンドローというコンビ時代につくったネタを今でも覚えています。設定は友達の葬式。ふざけ倒す菅。畑中が「いい加減にしろ! 不謹慎だろ」とキレると菅が言い返します。「これは、こいつがオレが死んだらやるって言ってたことをやってんだよ!」復讐をしているのです。自分には考えもつかない発想でした。菅のセンスはずば抜けていたと思います。特技としてアピールしてきたのは「ストⅡのコンボを入力するモノマネ」です。プレステのコントローラーを持ってきてボタンを早押しするだけです。それをモノマネと言ってしまう切り口にセンスを感じました。

 どのようなネタを「センスいい」と褒めればいいのか、いまだに迷います。

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