大人の代わりに家事や家族の世話を担う「ヤングケアラー」だった、平成ノブシコブシの徳井健太さん。『私だけ年を取っているみたいだ。 ヤングケアラーの再生日記』というコミックエッセイで、ヤングケアラーが感情を取り戻すまでの様子を描いた水谷緑さんとの対談を一部編集の上、『週刊文春WOMAN2023創刊4周年記念号』より紹介します。
「毎日怪物と戦っているような感覚だった」「コンセントの穴にケチャップが埋められていた」と語る徳井さんが、お笑い芸人として飛躍を遂げたきっかけとは何だったのでしょうか。
「ヤングケアラー」という言葉を知ったきっかけ
徳井 水谷さんの本を読ませてもらって、自分の身に起こったこととほぼ一緒だったのでびっくりしました。
水谷 小さい頃のエピソードも重なる部分はありましたか?
徳井 母親は統合失調症だったんですけど、マックスでぶっ飛んでたのは僕が中学1~2年生の頃で、家事はほぼ僕がやっていました。主人公は辛いという感覚を持ってないですけど、僕も心配されることではないと思っていました。
水谷 ヤングケアラーという言葉を知ったきっかけは?
徳井 最近です。『敗北からの芸人論』という本を出した時、取材者から、「徳井さんってヤングケアラーですよね?」って言われて。どういうものなのか聞いてみたら、当てはまったんですよ。
水谷 この本を描こうと思ったのは、ある編集者の方から親が精神疾患を持つ子供について書いた本の存在を教えてもらったことがきっかけだったんです。これまで精神疾患の方を取材して漫画を描いてきたのですが、そういう人達の子供達が何を思っているのかが気になって。実際に話を伺うと精神年齢が高くて面白い方が多いことに気づいたんです。
毎日怪物と戦っているような感覚
徳井 たしかに、たしかに。
水谷 例えば『サザエさん』が嫌いだったり、家族っていいもんだみたいなことを描いている番組が嫌いだったりしたんですけれど。
徳井 僕からすると、あれはファンタジー。嫌いではないですけど『アンパンマン』と同じです。
水谷 徳井さんは、お母さんによってコンセントの穴にケチャップが詰められていたことがあったと。
徳井 マックスの時ですね。当時は統合失調症という言葉が一般的じゃなかったから、狐に取り憑かれているというか。子供ながら、“大昔だったら呪われてるとか言われて殺されてたんだろうな”と思いながら、客観的に母親を見てました。まぁ怖かったですけどね。毎日怪物と戦っているような感覚で、とにかく眠っていてくれと思ってました。酔っ払うと、とにかく危なかったので。