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遭難事故が相次ぐ「バックカントリー」への誤解と偏見で「自業自得」の声も…救助費用の“実態”は

魅力とリスクを解説

2023/02/08

genre : ニュース, 社会

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「バックカントリー=コース外滑走」と誤解される理由

 ところが、この立入禁止区域にはシュプールがついていないし、圧雪されていないのでパウダースノーが残っていることも多く、ルールを守らずに立ち入って滑走する者が散見される。これがいわゆる「コース外滑走」であり、ルール違反なのだから批判されるのは当然であり、まして事故が起これば「自業自得だ」と言われるのも仕方がない。

 一方のバックカントリーは、スキー場の管理区域外に広がる自然のままの山岳エリアをフィールドとする。日本の場合、そのほとんどが国有林となっていて、原則的に誰でも自由にそこを滑走することができる。

©羽根田治

 ただ、バックカントリーを楽しもうとするときに、スキー場のゴンドラやリフトを利用してゲレンデトップに上がり、そこからスキー場外の山岳エリアに出ていくことが少なくない。このことが、「バックカントリー=コース外滑走」と誤解される一因にもなっている。

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 それに輪をかけているのが、マスコミ報道によるミスリードだ。最近の事故報道のなかにも、「コース外を滑走する」「スキー場のコース外にあたるバックカントリーで」といった表記がいくつも見られ、読者に「バックカントリー愛好者は立入禁止となっているコース外でスキーをしていて事故を起こした」という印象を与えてしまっている。

月山スキー場周辺の「立入禁止」エリアなどが記されたマップ ©羽根田治

 だが、繰り返し言うが、バックカントリーはスキー場の管理区域外を滑走するもので、なんらルール違反をおかしているわけではない。スキー場内の立入禁止区域を滑る「コース外滑走」とはまったく別物であり、これまで報道されてきた事故の多くは、コース外滑走ではなくバックカントリー中の事故だと思っていい。

 冒頭に挙げた1月29日の白馬乗鞍岳での雪崩事故にしても、バックカントリーエリアで起きたもので、遭難したパーティはバックカントリーを熟知し、装備もリスクに対する備えもしっかりしたものだったことがうかがえる。