かつては“3K(きつい・汚い・危険)のアウトドアスポーツ”とまでいわれた登山だが、近年は若者にも人気のレジャーとなっている。その一方で、2000年以降は山の遭難事故が急増した。そして遭難事故は、多少の波はあるにせよ、増加基調で推移し続けている。

 ここでは、近年の遭難事例や遭難対策を紹介し、安易な山登りに警鐘を鳴らす羽根田治氏の著書『山のリスクとどう向き合うか 山岳遭難の「今」と対処の仕方』(平凡社)より一部を抜粋してお届けする。(全2回の2回目/1回目から続く) 

写真はイメージです ©AFLO

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相次いだ北アルプスでの事故

 例年、ゴールデンウィーク(以下、GW)ごろは大きな遭難事故が起きやすい。 まとまった休みが取れるということで大勢の登山者が山に繰り出す一方、この時期は気象の状況次第で山の天候が厳冬期のような厳しさになることもあるからだ。 

 たとえば、2012(平成24)年のGWの後半、前線を伴う低気圧の通過と寒気の流入により、北アルプス一帯は真冬並みの悪天候となり、遭難事故が相次いだ。白馬岳では5月4日、栂池(つがいけ)ヒュッテを出発した60~70代の男性6人パーティが、夕方になっても宿泊予定の白馬山荘に到着せず、家族が警察に捜索願いを届け出た。

 この日の朝の天候は無風で青空ものぞいていたが、午後になって天候が急変し、稜線上はブリザードのような吹雪となった。その悪天候のなか、6人はなんとか白馬岳北方の三国境あたりまでやってきたが、そこで力尽きてしまった。現場を通りかかった登山者が、稜線で倒れている6人を発見したのは、翌朝のことだった。 

 遭難者の体の一部は、厚さ10センチメートルほどの氷漬けとなっていて、地面に張り付いていた。6人の死因は、いずれも低体温症であった。

救助を求めに向かうも、猛烈な風雪に見舞われて行動不能に

 同じ日、穂高連峰では、北穂高岳から穂高岳山荘に向かっていた福岡の「あだると山の会」の男女6人パーティ(50~70代)のなかの女性メンバーが、オダマキのコル(ミヤマオダマキが咲く鞍部の通称)のあたりで低体温症にかかって動けなくなってしまった。このため、リーダーともうひとりのメンバーが女性に付き添ってその場に残り、ほかの3人が穂高岳山荘に救助を求めに向かったのだが、その3人も涸沢岳に登り着いたと同時に猛烈な風雪に見舞われ、こちらも行動不能に陥ってしまった。

 その後、午後7時過ぎになって、オダマキのコルにいるリーダーの携帯電話がようやく通じ、穂高岳山荘に常駐していた岐阜県警山岳警備隊に救助要請がなされた。