壮大な山の自然を感じられる登山やキャンプがブームになって久しい。しかし山では、「まさかこんなことが起こるなんて!」といった予想だにしないアクシデントが起こることもあるのだ。

 ここでは、そんな“山のリスク”の実例や対処法を綴った羽根田治氏の著書『山はおそろしい 必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』(幻冬舎新書)から一部を抜粋。雷鳥沢キャンプ場で起きたキャンプグッズの盗難事件を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く

写真はイメージです ©iStock.com

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立山での1泊2日のテント山行

 土屋祐司(仮名・46歳)が登山を始めたのは2012(平成24)年ごろのこと。大雪渓と豊富な高山植物で登山者の人気を集める北アルプス白馬岳の南、標高1900メートルに広がる高層湿原・栂池(つがいけ)自然園を家族で訪れたのがきっかけとなり、ファミリーハイキングを楽しむようになった。また、義理の弟が登山を趣味にしていたことや、仕事関係の後輩が山に登りはじめたことにも影響され、自身も徐々に登山に魅せられていった。

 最初のころは主に家族が同行者だったが、そのうち後輩といっしょに行くことのほうが多くなった。たまには単独でも登るが、ほとんどの山行は後輩といっしょだ。登山の頻度は2、3ヶ月に1回、多いときで1ヶ月に1回ぐらい。たいていは日帰り登山だが、年に数回は小屋泊まりやテント泊で山に向かう。登山の知識や技術は山岳雑誌などを通して学び、初めて雪山に行く前には雪山講習会に参加した。

 とりあえずの目標は、山の文学者として知られる深田久弥(きゅうや)が選定した「日本百名山」の踏破。少しずつでも登り続け、いつか達成できたらと思っている。

 2019(令和元)年9月、その土屋がひとりで向かったのが、北アルプスの立山だった。この年はまだテント山行をしておらず、以前から立山にも行ってみたいと思っていたことから計画した1泊2日の山行だった。立山は標高3000メートル級の高山であるが、バスやケーブルカーなどを乗り継ぐアルペンルートを使えば、登山口となる標高2450メートルの室堂(むろどう)に労せず立つことができる。室堂から1時間ほど歩けば快適な雷鳥沢(らいちょうざわ)キャンプ場があり、周囲の山々への恰好の登山ベースとなる。