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「ディストピアだけど楽しく生きる」矛盾だらけの“福島復興”をよそに動物たちと淡々と暮らすナオトさんの10年間

「ディストピアだけど楽しく生きる」矛盾だらけの“福島復興”をよそに動物たちと淡々と暮らすナオトさんの10年間

『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』中村真夕監督インタビュー#2

2023/02/25
note

動物は戻って来るけれど、もともとの住人は戻って来ない

――夜ノ森の桜はインパクトがありますね。2020年ごろには道もすっかり整備されて。

夜ノ森の桜

中村 その少し前に印象的だったのが、人が戻ってくるよりも先に動物が帰ってくる現象でした。2011年の震災前後にいなくなった鳥が、翌年くらいから少しずつ戻ってきた。動物は危険を察知する能力もあるので、震災直前は鳥があちこちの被災地から姿を消していたようです。

 ずっと定点観測していたから、動物がどんどん戻ってきているのを感じました。2016年くらいから、ミツバチ、アオダイショウ、クマ、と次々と……。復興の作業員の人たちやその家族が町にくることで、動物も戻ってくるんですね。

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 でも若い住人は戻ってこない。2018年に入学式を撮っていますけど、元々住んでいた人たちの子どもは戻ってこなくて、原発関連の仕事に従事する新しい家族が移り住んできてるんです。年配の人たちはある程度戻ってくるけれど、若い世代の家族は10年暮らした別の土地で生活の基盤が出来ているから、もう戻ってこないのでしょう。

 

聖火リレーはまるで警察の運動会みたいで

――映画の中で「かつて富岡町は原発で潤った」とナオトさんが懐かしそうに語っていましたが、原発について、ナオトさんや富岡町で育った人たちはどう捉えているんでしょうか。

中村 彼らは良くも悪くも、いろんな意味で「原発に翻弄されてきた人たち」だと思うんです。確かに他に産業はないし、風評被害もあってこれからは農業をやっても難しいだろうし……。

――それでもナオトさんは「生活の糧になれば」とハチを飼い始めましたね。

中村 そうしたら、保健所から「県内の養蜂家のハチミツを調べた結果、自主回収になったから、気をつけてください」って通知が送られて来るんです。ナオトさんは「俺に言うんでねえ、ハチに言えって。放射能あるもん吸ってくるなって」と笑ってました。そういうところにも日本の矛盾が凝縮されている気がします。

 夜ノ森駅も「福島を復興します」と華々しく開通させたんだけど、線路を挟んで帰還困難区域と解除された区域に分かれている。そこを線路で仕切っただけというのも滑稽で。住人はみんな、こうした国の対応に、根底には怒りを抱えてるんだけど、開き直って笑うしかないんです。

写真:八尋伸

 福島を東京五輪の聖火ランナーが走ったとき、コロナもあって観客を制限したんだろうけど、もともと双葉町に人がいないので観客がいなくて。警察の警備の人しかいないから、警察の運動会みたいに見えました。新しい建物はたくさん建ったけれど、人が戻ってきてない。「復興五輪の裏側」という感じですね。