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「ディストピアだけど楽しく生きる」矛盾だらけの“福島復興”をよそに動物たちと淡々と暮らすナオトさんの10年間

「ディストピアだけど楽しく生きる」矛盾だらけの“福島復興”をよそに動物たちと淡々と暮らすナオトさんの10年間

『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』中村真夕監督インタビュー#2

2023/02/25
note

予想もしない人生に向き合い「ディストピアだけど楽しく生きる」

――それでも、ナオトさんや富岡町のみなさんには悲壮感がないですね。

中村 「ディストピアだけど楽しく生きよう」という思いがあるんじゃないでしょうか。私がいろんな被災地に行ってみて思ったのが、人は意外とすべて失うと開き直って明るくなれるんだな、ということ。テレビの「耐えて頑張ってます」みたいな報道は、私たちが見たがっているものを見せているだけなのかもしれない。

 

 別の被災地ですが、震災で家も持ち物も、全部流されてしまった人の取材に行ったときに、新しい家に引っ越したけど、家具は全部ダンボールで作っていて「ダンボールあったかくて最高」と、明るく楽しんでいる人もいました。全部失って「一から全部やろう」と思うと力が湧いてくるのかもしれないですね。

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――予測もしなかった人生に向き合っている人たちですね。

中村 そこで弱る人と強くなる人に分かれるのかもしれないですね。ナオトさんは本当に人生がガラッと変わってしまった。家にもいろんな人が訪ねてくるようになって、壁にはたくさんの人からのメッセージが残されています。元首相夫人の名前もありました。世界中からいろんなジャーナリストがナオトさんを取材しにくるので、私も取材中にいろんな国の人と知り合いになりました。

「牛が最後の1頭になるまで世話する」

――今後も監督はナオトさんを撮り続けるんでしょうか?

中村 多分、私とナオトさんが生きている間には、原発の問題は終わらないだろうし、私から見たナオトさんはもう「親戚の変わったおじさん」みたいな、家族みたいな存在なので、これからも年1回くらいは取材に訪れると思います。ナオトさんは、最初はあそこに居続けることで抵抗を表すつもりだったみたいですけど、今は体が元気な限り「牛が最後の1頭になるまで世話する」と言っていました。

 それにしても、気分的にはもう100年くらい見守ってきた感覚なんです。動物をたくさん見送ってきたし、富岡町辺りの変遷も激しくて、普通の町で過ごす10年とはスピード感が違う。すごく多くの時が流れた気がしています。

――映画を観ても、ナオトさんと中村監督は、長く一緒に過ごしてきた家族みたいに見えますね。

中村 もともと、撮影しながら自分の存在を消していたんですが、後から参加したプロデューサーから「あなたも映っていたほうが関係性がわかっていいんじゃないか」と言われて。確かに長い付き合いで、ナオトさんと私の関係性も変容していったし「それもそうだな」と思って、後から私の声や姿の入った映像を掘り起こしたり、終わりの方ではもう1人カメラマンに同行してもらって、カメラで撮っている私自身も撮ってもらったりしました。

ナオトさんと中村監督

――最後に映画『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』公開に際して一言お願いします。

中村 震災から10年以上過ぎましたが、原発事故で変わってしまった富岡町のような町のことを忘れてほしくないと、強く思います。「電気代高いから原発再稼働したほうがいいよね」みたいな目先のことだけになってしまえば、また同じことが起こる可能性だってある。次にはもっと取り返しがつかなくなるかもしれない。

 いくら復興したとしても、すべてが元に戻るわけではないんです。自分でも映像を振り返ると「人間だけでなく、自然や動物やすべてに影響することなんだな」と心から感じています。

INFORMATION

『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり 』

2⽉25⽇(土)よりイメージフォーラムにてロードショー


https://aloneinfukushima.jp/

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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