不安で流動的な世の中を自分らしく生きていくために「勉強」が必要だ――完璧主義ではなく、偏愛する分野に突き進みながらちょくちょく「今はここまで」と中断し、余所見(よそみ)もしつつ日常生活に戻る。そんな実践的な“勉強のすすめ”を説いた昨春刊行『勉強の哲学』は6万部越えのベストセラーとなった。このたび上梓された『メイキング・オブ・勉強の哲学』ではその執筆過程が明らかになる。
「『勉強の哲学』は想像以上に好意的に受け止められました。『自分のことをヘンな奴だと思っていたが、この本を読んで、それでいいのだと自己肯定されたようで嬉しい』という感想もいただきました。これでいいのか、という自己ツッコミは今後も続けて欲しいけれど、まずは肯定感を持って貰えたのは大事なこと。『勉強の哲学』は他人と競争して勝つことを目的とする本ではないからです。僕は、それぞれの人が自分の関心をバラバラに追求していけば、競争的結果というものは後からついてくるものだ、と思っているんです」
「自分の関心」とは、『勉強の哲学』で重要な働きをしている概念「享楽」のことで、その人独自のやめられない好みの偏りを指す。
「あの本で一番苦労したのは第二章です。物事を突き詰める方向性(=アイロニー)と、横に逸れて相対化してみる方向性(=ユーモア)の二つで論を組み立てようとしたところ行き詰った。でも“享楽”という第三のとっかかりを見つけた時、漸(ようや)く先に進めました」
発想の初期は縦横に手を動かす手書きメモ、次の段階はどんどんアイデアを記していくアウトライナー。『メイキング・オブ・勉強の哲学』ではアナログとデジタルのノートが並列で公開され、千葉さんの思考展開が可視化されている。
「書きながら自分のダメな部分といい所がある程度分かりました。色々な人の支援になればいいなと思ってスタートした本でしたが、セルフヘルプでもあった訳です。僕は今、『障害学』に関心を拡げているのですが、“享楽”とはある種の“障害”です。誰にでもある傾きのようなもので、支援や指導をする側が自分の“障害”を分析できていないと、えてして福祉や教育では『他人をダシにする』ということが起こるんです」
本書では新たに「占い」というキーワードが提示されてもいる。不確かな未来を楽天的に切り拓いていくツールとしての「占い」。副読本の範疇を越え迷う者の背中を押してくれる一冊だ。
『メイキング・オブ・勉強の哲学』
代官山蔦屋書店での佐々木敦氏とのトークイベント「メイキング・オブ・勉強の哲学」を再構成した章を中心に、東京大学駒場キャンパスでの講演と質疑応答、ウェブでのロングインタビューや語りおろしを収録。巻末「資料編」には膨大な草稿である手書きメモとデジタルノートを掲載。『勉強の哲学』の全貌に迫る。