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情念が書けるかどうか

北方 それにね、僕はもう一つ橘さんに注文があるの。『パーマネント・ブルー』は、「EXILE」の小説版みたいなところがあるでしょ? 矢印が全部「光」に向かっているの。それだと眩しすぎちゃうから、もっと闇や暗さを見つめて、「光に向かっていく情念」みたいなものをとらえたらいいんじゃないかな。そうしたら、暗さが持つ輝きも描けるようになって、さらに面白くなると思う。

 EXILEの東京ドーム公演を観に来てくださった時も、「もっとEXILEの陰の部分が観たい」っておっしゃってくださいましたよね。あのお言葉、いまでも覚えています。

©文藝春秋

北方 EXILEの公演って、最初から最後までプラスに向かって走っててね、わーって頂点極めて終わるでしょ。さすがにEXILEで踊っているときは闇なんか見つめていられないだろうけど、でも、光が輝くのはあくまでも闇があるから。だから、橘さんは絶対に次は陰を書いたほうがいい。……って、あの公演で興奮して金網つかんで叫んでた俺が言うのもなんだけど(笑)。

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 でも陰を書くのって、リアルを書くより難しいし、テクニックも必要ですよね。

北方 陰なんてものは、生み出しちゃえばいいんですよ。橘さんはダンスで生きてきたわけだから、ダンスを通して「生きる」ということに目を向けたことが何度もあると思う。そうやってよくよく目を凝らしてきたものの周辺では噓もつきやすい。陰を書くことだってできると思いますよ。

©文藝春秋

 今回は主人公の相馬賢太(そうまけんた)に僕自身を投影させ過ぎてしまったので、それも「陰」を書きにくかった要因かなと、いまお話を伺っていて思いました。

北方 次は自分じゃなくて、かつて憧れた人間なんかを投影すればいい。俺は子どもの頃、西鉄ライオンズの中西太さんに憧れていたんだけど、歴史ものを書くときにもね、自分がどんなふうに中西選手に憧れていたかを思い出しながら、中西の存在のニオイみたいなのを投影した人物を登場させたりするんですよ。そうやって思いに真実を与えていくと何かしら「いい噓」が書けると思います。とはいえ、俺だって「いい噓」がつけているかどうかはわからないけどな。

 僕なんて「いい噓」以前に、自分が「いい小説」を書けているかどうかも自信がないです……。