ペナントレース開幕直前の3月28日未明、中日ドラゴンズに激震が走った。

 ジャリエル・ロドリゲスがキューバから亡命し、MLB移籍を目指してドミニカ共和国に到着した、と報じられたのだ。この“スクープ”をレポートしたのは、キューバ野球に関する著作もある、MLB専門記者のフランシス・ロメロ氏。その後、同じくロメロ氏のTwitter上で、ドミニカ共和国のジムでトレーニングをするジャリエルの姿が報じられたのみで、未だにこれといった続報は届いていない。

 日本での報道のほとんどが「亡命か?」と断定を避けた書き方をしているのは、まだ「悪質な代理人に誘拐同然で連れ去られてしまった」という可能性もあるからだ。なので、ドラゴンズファンにもこの点には留意した上で、この件には注視してもらいたい。この種の騒動は、キューバからの亡命者だけでなく、国境を跨いで活動するスポーツ選手にはよく降りかかることがあり、前例もある。だからこそ、同胞であるライデル・マルティネスは「心配している」というコメントを残したのだと思う。

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ジャリエル・ロドリゲス ©時事通信社

ジャリエル・ロドリゲスの“素顔”

 筆者カルロス矢吹は、ジャリエルがドラゴンズと育成契約を結び来日したばかりの2020年北谷キャンプで、直接対面取材をしたことがある。ブルペン捕手を務めるルイスさんに、マンツーマンでクイックや牽制の基礎を教わった後、スペイン語で話しかけたところ、「14歳から17歳まで野球をやってなかったんだよね」「日本の“ヤキニク”は最高だね、休みのたびに食べに行ってるよ」「早く支配下になって活躍したい」と少し緊張した面持ちで返答してくれた。

 明らかに取材慣れしていないジャリエルは、“サナギ”どころか“幼虫”と表現する方がしっくりくらい幼かった。同じくその年に加入した新外国人、ルイス・ゴンサレスとモイセ・シエラが淡々と取材対応したこともあって、余計にジャリエルの未成熟さが強烈なインパクトとして残ったことを覚えている。

 ただし、ハングリー精神は明らかにジャリエルの方が上だった。結果、今名前を挙げた中で、NPBで成功を収めたのはジャリエルだけだ。さすがに最優秀中継ぎ投手のタイトルまで取るとは思わなかったが、彼の日本でのキャリアをずっと見てきた人間からしても、今回の件に関しては“怒り”よりも“心配”の方が先に立つ。ライデルと同じく、まずはどうか彼が無事であることを祈っている。

 とはいえ、競技面で中日ドラゴンズが大きなダメージを負ったことは間違いない。

 今シーズンも8回を彼に任せる、という計算の下にゲームプランを組んでいた立浪和義監督からしたらたまったものではなかっただろう。開幕戦も、ジャリエルがいたら小笠原慎之介が8回まで投げることはなかったかもしれない。幸いにもこの試合は逆転勝ちしたが、今後長いペナントレースが続く上で、ジャリエル不在の影響を痛感するシーンは出てくるだろう。