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「警察に通報します」予想外の事態が…「孤立流産」した女性の救急搬送に立ち会って見えたこと

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2023/06/12
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刑事は「個人的には事件性はないと思う。ただ…」

 捜査第一係のある階はスーツ姿の男性の出入りで慌ただしい雰囲気だった。会議室が空いていないので、と連れて行かれた廊下の隅で、小さなテーブル越しに捜査第一係の刑事と対面で座った。さきほど電話で話した若い刑事だ。刑事は筆者の時間を拘束していることを詫び、捜査への協力について礼を言うと、住所と職業を聞き、記録した。そして、

「もう一度、朝から起きたことを順番に話してもらえますか」

 聞き取りが始まった。

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 筆者は昼間電話で話した内容をもう一度説明した。すなわち、ユキさんのいる場所に筆者が向かったこと。ユキさんが流産した内容物の入ったビニール袋をバッグに入れていたこと。救急車を呼ぶ提案をユキさんが抵抗なく受け入れたこと。慈恵病院と筆者の関係、そして、慈恵病院が救急搬送を要請した病院についてだ。

新宿警察署 ©共同通信社

 説明に要したのは10分ほどだった。その後、筆者は、2020年12月に品川区のマンションで死産した女性が逮捕後に不起訴となったケースを当時取材したことを話した。そして、「同じパターンだと思うんですが、なぜ、流産したことで取り調べが必要なんでしょうか」と質問した。

 すると刑事は困ったような顔になり「個人的には事件性はないと思う」と言いにくそうに話した。

「ただ、赤ちゃんをロッカーに遺棄するような事件などが歌舞伎町界隈には多いんですよ。だから、こういう捜査をせざるを得ないんです。一応、ちゃんと調べとかないといけないんで。でも、事件性がないと思ったのも、あくまで僕個人です。上司がどう判断するかはわからないんで」

 だが、流産にいったいどんな事件を想定しているのか、刑事の説明ではさっぱり見当がつかないまま、15分ほどで放免となった。

流産直後の女性に4時間の事情聴取

 その後、夜、ユキさんからショートメッセージが入り、さらに驚くことになる。ユキさんは4時間にわたり病院の診察台に座った状態で刑事に事情聴取をされていたというのだ。流産直後で心身に負担のかかった女性を、スーツ姿の刑事が3人、産科外来の診察室で取り調べた。流産したその日の状況や妊娠の経緯を聞かれ、ケータイの通話やLINE履歴を全部取られた。親の連絡先を明かすよう求められ、拒否すると「それを言わないと事情聴取は終わらないよ」と言われたという。死産児の遺体は警察で病理解剖に回され、女性の身につけていた下着を含むすべての衣類を押収された。

 警察の言う「流産における事件性」とは何なのか。母体保護の観点からも、こうした警察の事情聴取のあり方に問題はないのだろうか。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

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