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サッポロ社員ですらその存在を知らなかった…世界中のクラフトビールを支える「ソラチエース」の数奇な運命

source : 提携メディア

genre : ビジネス, 商品, 企業, 国際

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川崎市出身の新井は、東京大学農学部を卒業し同大学院で酵素学を修めて2007年に入社。研究所や工場の醸造技術分野を歩み入社7年目の13年秋から、ミュンヘン工大に留学。期間は1年間、会社から派遣されたのだ。

クラフトビールは上面発酵で醸造される「エール」が多い(もちろん「ラガー」のクラフトビールもある)。20℃前後の常温で発酵し、最終的に酵母は上面に浮かぶ。ラガーに比べ香りは華やかで、発酵期間はラガーより短い。19世紀後半に、リンデンが冷却技術を開発する前は、ビールの多くはエールだった。

カリスマ醸造家がなぜソラチエースを?

ペールエールは上面発酵の代表であり、フルーティな味わいなのが特徴。イギリスが発祥のペールエールを18世紀に、植民地だったインドまで遥々と運ぶために開発されたのがIPA(インディアン・ペールエール)。防腐のためにホップをふんだんに使い苦味が強いのが特徴だ。

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このほか、小麦麦芽を使うヴァイツェン、ローストした麦芽のスタウト、チェリーなど果実に漬け込んだフルーツビールなどなど、クラフトビールは多士済々(たしせいせい)。同じIPAでも、醸造所によって味わいは異なる。醸造の職人(クラフトマン)が前面に出て、小さな設備で多品種少量でつくられる。最新設備により、主にピルスナータイプを少品種大量生産する大手のビールとは違うところだ。

それはともかく、現在のIPAの原型をつくったのは、ブルックリン・ブルワリーの醸造責任者、ギャレット・オリバーである。カリスマ醸造家であるギャレット・オリバーは、どうやってサッポロのソラチエースと出会ったのか。

日本で脚光を浴びることなく、アメリカへ

サッポロビールが開発したホップ、ソラチエースは1984年に誕生した。開拓使麦酒醸造所の創業時から、サッポロはホップの育種・研究を行っていて、その一つがソラチエースだった。

育種したのはサッポロの元技術者、荒井康則。現在「SORACHI 1984 ブリューイングデザイナー」の肩書きをもつ新井健司は、ソラチエースについて次のように説明する。