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小雪舞う川で半裸のロシア人が水垢離に誘う

 ロシアでの調査で泊まったのは、国立公園内の見回り用の小屋や、モンゴルのパオのような移動式のテントである。ここにはガスも水道も電気もないため、沢から水を汲み、薪を燃やして料理を作った。ロシアの調査をアテンドしてくれるカウンターパートのイヴァン・セオドーキンさんは、とても親切だったがドン引きするような習慣を押し付けてくることもあった。なぜだか知らないが、「これをやらないとクマが捕まらないんだ!」と信じていて、夜に川に入ることを強要するのである。

「ロシアでは夜に川に入らされるぞ」というのは、夏に行ったチームから聞いていた。

 まさか秋にはやらないだろうと高を括っていた。いやはや甘かった。実に甘かった。

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 秋にロシア入りした私たちにもイヴァンさんは川を指さし、ロシア語で何かいい出すのである。イヴァンさんは英語が苦手だ。そして私たちはロシア語がわからない。身振り手振りと断片的に聞こえる単語から推測するに、これはやはり川に入れということらしい。

 10月から11月のロシア沿海州の気温は一桁である。雪も舞っている。川の水温は4℃である。正気の沙汰じゃない。

次から次へと出てくるウォッカのオンパレード

 やはり、さすがにこの時期は川に入れというわけではなかった。バケツで川の水を汲んで水垢離するというスタイルだった。イヴァンさんは私にバケツを押し付けていった。

「スリー!(3杯かぶれ)」

 困った。ろくに言葉でのコミュニケーションが取れないから、角を立てずに「無理です」と伝えられない。ロシアの調査はイヴァンさんの厚意で成り立っているから、彼の機嫌を損ねるわけにはいかない。

 ええい、もうやるしかない!

 私は水をかぶった。秋のロシアの川の水は本当にヤバかった。体に水がかかった瞬間、フラッとして危うく卒倒するところだった。冷たさで平衡感覚を持っていかれたのは生まれて初めてだ。

 このように過酷な調査と願掛けが終わり、そのあとは部屋に入ったところでウォッカの酒盛りとなるのがお決まりのコースである。

 イヴァンさんをはじめ現地のスタッフの多くはウォッカに目がなく、私たちに次々と振舞ってきた。しかし、そのウォッカが何だか怪しい。本来ウォッカは無色透明のはずなのに、彼らの持っているウォッカは麦茶のような茶色だったり薄い緑色だったりする。よく見ると、瓶の蓋には市販品で見られる密造防止のキャップが付いていない。