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「もう明日にでも死ねたらなぁ」父の目尻には涙が…在宅介護では避けられない“インセン”娘が父の陰部を洗った日

『家で死ぬということ ひとり暮らしの親を看取るまで』より #2

2023/08/28
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ついに父は娘のインセンを受けることに…

 2022年4月29日、昭和の日の祭日をスタートに5月8日までの大型連休がはじまった。前日から開始された訪問入浴を機に一階の和室へ移動した父は、介護ベッドの上で私のインセンを受けることになった。

「おまえにこんなことさせられないよ、ここまで世話になって生きていたくないよぉ……」

 露わになった陰部を両手で洗うと、父はさも居たたまれないように悲痛な声を出す。

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「ヘルパーにやってもらうから。早くヘルパーを呼んでくれ」

 同じ懇願を何度もする。娘のインセンを受ける恥ずかしさ、加えて娘の手際の悪さもあり、父はあれほど避けていたヘルパーによる介護を求めるようになった。

 とはいえヘルパーの訪問介護は1日1回、1時間のみ。おまけにそのスケジュール調整は思ったようにはいかなかった。

 あらたに計画された週に2度の訪問入浴は朝一番の午前8時20分開始、午前9時終了だ。その後、今度は午前9時や10時にヘルパーがやってくる。

 訪問入浴で全身を洗い着替えを済ませるため、直後にヘルパーが来てもインセンや清拭の必要がない。入浴で疲れた父にすればひと眠りしたいし、実際に寝てしまう。ヘルパーはこれといった介護ができなくなり、半ば手持ち無沙汰の状態だ。本来なら午後や夕方の時間帯、陰部の汚れが気になりだす時間や、食事介助の時間に合わせてもらいたいのだが、現実はそう都合よく運ばない。

 利用者宅を訪問するヘルパーは兼業主婦が多く、子どもの帰宅時間や夕方の家事の時間帯には仕事より家庭を優先したい。こちらのニーズはあってもあちらには人がおらず、おまけに大型連休ではますます人員確保がむずかしいのだ。

 1日の大半の時間、介護をするのは私しかいない。インセンにしても女友達が言ったように「やらなきゃならないってなったら、もうしょうがない」、そのとおりの現実に格闘する羽目になった。