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「ヒデさん、鼻毛出てますよ!」元中日・英智が考える「コーチと選手の理想の関係」

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/09/29
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なぜ私は「鼻毛」の話が重要だと思っているのか

 さて、ここからが本題です。私が理想とするコーチと選手の関係性についてです。

 試合中などで出たプレーに関して、選手と真剣に向き合い、説明をひと通り話し終えて「理解できた?」と尋ねたりして、選手が「はい、わかりました」とやりとりを終えます。そこからです。話を終えたその後に選手の方から、

「ところでヒデさん……鼻毛出てますよ!」

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 と身だしなみの指摘をされる。この指摘してもらえる行為、これこそが私の理想の関係性なのです。何を言っているのかと思われるかもしれませんが……。

 重要なプレーの改善点などは、お互い申し合わせながら理解を深めます。しかし、その理解を深めなければならない重要な段階で、もし選手側がYESしか言わないYESマンになっていたり、こちらが求めている答えを行儀よく並べるだけの会話に終始したりするような関係ならば、おそらくその重要なプレーの説明が終わった後、「鼻毛が出ていること」への指摘はせずに立ち去ってしまうでしょう。

 けれど、プレーに全く関係のない「鼻毛」について選手から指摘されるような関係ならば、プレーに関しても理解を深める際、おそらく疑問や質問を投げかけてくれるはずです。

 この一方通行にならないやりとりができるかどうかが重要なのです。伝えるだけ伝える、では理解は深まりません。何でもいいから選手の方から話してもらう。ミスをミスのまま終わらせない、同じミスは繰り返させない。そのための会話をしたいのです。

 ですから、この何にも野球には関係ない「鼻毛」の指摘をされるという行為が私には重要なポイントです。「鼻毛」というワードは、分かりやすくお伝えするための例えですが、コーチ業を積み重ねていくと、そのような些細な身だしなみや行動について、選手から突っ込まれないようにする思考が常に働いてしまいます。まぁ、それが当たり前でしょう。

 しかし、思い返してみると、自分が選手だったあの頃のコーチはどことなしか隙を見せてくれていて、若干ではありますがコーチより選手の方が優位な立場と言うか、選手がコーチに対してツッコミを入れる機会がたびたびありました。それができる空気感、環境があったような気がします。

 私もコーチだった頃は、意図的に選手から突っ込まれる隙を少しだけ作りながら、それとは別にしっかりとした技術とノウハウを伝えようと努力していました。

 実践、反省、課題を繰り返していく上で、選手との関係作りはとても重要です。「鼻毛出てますよ!」というどうでもいい会話が選手と成立している段階で、その相手とは既にどうでもよくない特別な関係性が築けている証拠なんだと私は感じます。ですから、「鼻毛出てますよ!」は非常に嬉しいツッコミなのです。もちろん、選手の鼻毛が出ている場合はちゃんとこちらから指摘します。

 長い期間をかけて携わってきた堂上直倫選手、福田永将選手からは、もし私の鼻の穴から鼻毛が出ていたなら「ヒデさん、左の鼻の穴のインコース低めあたりから鼻毛出てますよっ」と言ってもらえると信じています。

 これが、私が理想とするコーチと選手との関係性です。2人の次のステージでの活躍、期待しています。

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