文春オンライン
文春野球コラム

シーズン終盤の憂鬱な季節…元中日・英智が明かす“ベテラン選手のリアル”

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/08/31
note

 プロ野球選手として活躍していると自他共に認められる成績を残している選手は別として、活躍に値してないと自己分析している選手は、シーズンも終盤に入ると「来年もユニフォームを着られるのか……?」という思いで頭が埋め尽くされます。

 まさに自分がそうでした。そりゃ当然プロですから、やるべき練習は手を抜かず毎日やります。しかし、気持ちの芯からやる気が湧き起こっているかと言われると、ポジティブな感情は断水状態で、いくら自分で蛇口を捻っても前向きな感情は流れ出てきてはくれません。

 なぜかというと、自分を取り巻く環境が少しずつ変化していくからです。その変化はよほど鈍感でない限り、肌で感じてしまいます。

ADVERTISEMENT

ベテラン選手の練習とそれをサポートしてくれる方々

 ベテランと呼ばれる年齢になった自分が、シーズン終盤に二軍にいたときのことです。怪我もしていないし、調子も悪くない。なのに二軍の遠征には帯同されず、名古屋に残って練習する機会が増えていったり、全体練習が終了した後の個別練習の欄から名前が消えるようになって、コーチから「お任せだよ」と説明を受けたりと、以前なら当たり前に入っていた枠から徐々にはみ出るようになっていきます。年齢的な配慮とも受け取れるのですが、それとは違う空気が明らかに存在していました。

 なので、コンディション不良などを少しでも訴えようものなら、すぐさまホワイトボードに貼られている自分の名前のマグネットが試合出場可能の枠から外されてしまい、試合に出られなくなります。それどころか、遠征のメンバーからも外されてしまうのです。

 そんな環境では、なんとか奮起して個別練習をしようとしても、まずはサポート役の人を探すところから始める必要があります。

 守備練習をしたい場合、コーチではなく各部署のスタッフさんに声をかけて手伝ってもらえる人を探します。ノックを打ってくれるスタッフさんが見つかれば良いのですが、見つからない場合は、若手の打撃練習の打球を処理する練習で補うしかありません。

 打撃練習に関しては、マシン打撃が空いていたらそれで補いますが、やはり人が投げてくれる手投げの感覚でやりたいという場合は、若手選手の練習の妨げにならないように空いたスペースを見つけて、守備練習と同じくスタッフの人にお願いして投げてもらいます。投げてもらえるだけでありがたいですから、たとえボールが体の近くを通ったとしても「ナイスボール」と声をかけます。

現役時代の筆者・英智 ©文藝春秋

 自分がコーチの時に見ていたドラゴンズもそうでした。

 30歳を過ぎてベテランと言われ出す選手たちは、全体練習終了後に室内練習場の片隅で、私が現役の時と同じようなスタイルで練習を行っていました。堂上直倫選手や福田永将選手、大野奨太選手などです。コーチだった私が「手伝おうか?」と言ったとしても、既に打撃投手役のマネージャーが準備してくれていたりして、私の入る隙間はありませんでした。

 手伝ってくれているのは、近藤弘基マネージャーや谷哲也マネージャー、普久原淳一マネージャーなんかは常連で、タイミングが良いと元投手で広報の赤坂和幸さんや川井雄太さんが投げてくれることもあります。ブルペンキャッチャーの赤田龍一郎さんが投げているのもよく見ました。

 さすがチームを支える側に回っているスタッフの方々です。みんな選手だった頃に同じような経験を経ていますから、快く手伝いをしてくれます。頼まれた練習のサポートを「嫌だ」「無理だ」なんて断った人は、いまだかつて見たことがありません。終始笑顔でやってくれます。

 選手のサポートを終えてから自分の仕事をするわけですから、ナゴヤ球場を後にするのはすっかり空が真っ暗になってからになります。ベテランと呼ばれる選手にとって、スタッフの方々はとてもとても大切な存在になるのです。本当に頭が下がりますし、いつも胸が熱くなります。

 ですから、ベテランと呼ばれるようになった選手たちが一軍の舞台で活躍したりするのを見ると、それはそれは飛び上がるほど嬉しい気持ちになるのです。

文春野球学校開講!