アニメファンの識者4人が「エヴァンゲリオン』の魅力について討論。新刊『ゴジラvs.自衛隊 アニメの「戦争論」』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

軍事研究家・小泉悠さん ©文藝春秋

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日本の国歌『残酷な天使のテーゼ』

高橋 私ね、「サブカル」って言葉あまり好きじゃないんですよ。「What do you mean “sub”?」 何が「サブ」を「サブ」にするのか? っていうときに、要するにメインカルチャーがあってカウンターとしてのサブカルチャーっていう位置付けなわけです。けれども、少なくとも今日本でSFやアニメはサブではない。たとえば今年(2024年)上半期の映画の興行収入を見ても、1位はコナン君(『名探偵コナン』)で、2位が『ハイキュー!!』で、3位が『SPY×FAMILY』で、5位が『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』ですから。

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小泉 そんなことまで把握してるんですか?

高橋 うん、エビデンスを押さえたいんですよ。人前で「アニメファン」と言って、変な目で見られなくなったのは、僕は『エヴァ』からだと思っていて、若い子たちが普通にしゃべっていたっていうことが、アニメファンが中心だった『ガンダム』のブームとちょっと違うんですよ。“エヴァ以前”と“エヴァ後”とで社会におけるアニメファンの立ち位置がだいぶ変わったと僕は同時代的に思っている。だから、“エヴァ後”に「サブカルチャー」って言葉を使うのはすごく慎重になるべきだと思っている。僕は「ポップカルチャー」って言い方をするんですけれど。

小泉 むしろ日本の、世界に対して一番売れている商品のひとつなので、ある意味でもうメインカルチャーになっちゃってるのかもしれないです。

高橋 あと『残酷な天使のテーゼ』がすごいカラオケで人気になったの。

小泉 僕は90年代、日本の国歌は『残酷な天使のテーゼ』だと思ってました(笑)。

太田 今はもう「アニメ好き」って言っても、別に変な目で見られることないですもんね。

マライ まあ、日本ではね。

小泉 ヨーロッパって全体的にメインカルチャーというか、クラシックなものに対するリスペクトがものすごくて。ロシアでも感じるんですけど、ドイツって特に強いですか?

マライ 強いですね。前も話したんですけど、ドイツに日本のアニメがたくさん入ってきたのが、まさに2000年ぐらい。日中やってるのは『ポケットモンスター』とか『デジモンアドベンチャー』とかそこらへんで、やっぱりアニメ=子どもだよねって感じなんです。でもじつは、深夜枠があって……。

小泉 大きいお友だち用。

マライ 大きいお友だち用の(笑)。『エヴァンゲリオン』も流れるし、『サイレントメビウス』とかも流れるんですよ。

高橋 『サイレントメビウス』、日本じゃあんまり観られないからなぁ。

太田 以前『機動戦士ガンダム展』の図録を作っていた時に、美術評論家の黒瀬陽平さんにインタビューしたんです。黒瀬さんに言わせると逆に日本のカルチャーでちゃんと歴史があるのは、「サブカル」だけなんだっていうんですよ。日本のメインカルチャー、たとえば美術とか音楽とかは基本的に欧米で流行ってるものを、日本的に翻訳するってことをずっと繰り返してきている。自分たち自身の独自の流れみたいなものがないんだ、と。黒瀬さんが言うには、今のオタクはそうじゃないかもしれないけど、少なくともオタク第一世代は歴史をすごく重視する。最初に『ヤマト』があって、『ガンダム』があって、それから『エヴァ』があってということをお作法として押さえておかないと、ちゃんとディープな話ができない。作り手もそれをものすごく意識してやっている。

高橋 その意味で言うと、庵野さんの作品ってすごい過去作のオマージュがいっぱいあるじゃないですか。